判例 女友だち 映画ウォーキング 情報BOX わがまま読書 リンク おたより欄
わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
小島慶子『女たちの武装解除』光文社 2012年

 毒舌に「そうそう!」と軽く笑えるところもあれば、心を揺さぶられるほど共感できるところもある。痛々しくて、ハグしたくなるところもある。読後は、とてもすっきりした気持ちになれる。そんな本だ。というだけでは何かつまらない癒し系の本の宣伝みたいだが、それは私が今あまりに感動して打たれたようにぼんやりしているからであって、この本の内容はもっと深みがある。
 数々の名言が載っている。たとえば、「羨ましがり鬼」の餌食にはなりたくない。嫉妬を憧れに変え、劣等感を健全な中庸に変えるには?シアワセを仕訳すればいい、とか。子育て中の身の上としては、特に子どもとの関係についてのいくつもの言葉に、何度も涙がにじんだ。テレビや雑誌には、絵に描いたような素敵な子育てと、地獄のような虐待家庭があふれている。とてもわかりやすい。でも実際には、たくさんの母親が、その間の、絵にならない日常の中で、善意と抑圧を懸命に生きて子育てをしている。小島もそのひとり。あとひとつ悪条件が重なったら…。虐待も特別の家庭の話ではない。どんな暴力も、偏狭と孤独から生まれる。芸能界のような華やかな外面を保ってなんぼという世界(思いっきりステレオタイプだろうか)にいる小島が、このように率直に子育て中の母親が追い詰められる孤独を自分が経験したこととして正直に話してくれるなんて、なんて素晴らしいことだろう。同じ経験に苦しんでいる母親たちはどれだけほっとできるだろう。客観的には決してぎりぎりの状態ではなかった私でも、子どもを宝物だといとおしく思いながらも、追い詰められて必死だったときがあった。その実感をなかったことせず認める女たち同士、喜びだけでなく痛みもほんのちょっと共有できれば、暴力までかきたてる極限の孤独まで追い詰められなくてすむ。小島がいうように「私とあなたは違うし、お互いに全部はわからないけれど、私にあなたの傷みも喜びも聞かせてほしい」と声をかけあいたい。
 妊娠、出産を機に、否応なく変わる夫婦の関係についても、意識的に話し合い、乗り越えるなど、小島は本当にエネルギーがあり、真摯だ。
 その他いくつも引用したい名言やエピソードがある。励まされることばかりでなく、辛く切ないものもある。そんなことに直面するのも、私たちの人生。痛みを直視しながらも、いつか乗り越えたいという願いをひしひしと感じ、涙を抑えられない。
 この本のもとになった連載が『VERY』にあることにはとても意味がある。ファッションやメイク、自分磨きにも精を出す。夫をイケダンに仕立て上げ、子どもはお受験に駆り立てるのが、あたかも当然のような雑誌。子どもも夫も自分の価値を決める値札かのよう。より優雅に、華やかに、「成功」した人たちがわんさか登場する『VERY』がそれ一辺倒だったら、読者を鼓舞する反面、追い詰めもするのではないか。連載前、美容院で『VERY』を読んでは毎回激しくツッコミ(「ダンナまでアクセサリーとして使い始めたか」etc.)を入れていた小島に、「黒いトロイカ体制」をと誘った編集部の包容力は素晴らしい。読者は、表VERYに溢れる様々なこだわりに煽られる寸前で、裏VERYたる小島の連載に「それ、ヘンじゃない?考えてみてよ」とストップできるし、押し隠した痛みには「そういうこともあるよ」と言ってもらえた気になり、「あなたはあなたでいいじゃない」とポンと肩をたたいてもらえた気がするだろう。ぐいぐい読めるが、これだけ正直に毒も祈りも書くのはしんどかったはずだ。書いてくれてありがとう、と小島に心から言いたい。(良)
Copyright(C) 2001 GAL. All Rights Reserved.
 
TOP BACK