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堅田香緒里・白崎朝子・野村史子・屋嘉比ふみ子『ベーシックインカムとジェンダー 生きづらさからの解放を求めて』現代書館 2011年

 ベーシックインカム(以下BI)とは、「すべての個人に、その生活に必要な所得を無条件で保障しようというシンプルな政策構想」であるという(本書22頁)。本書を読むまでBIという言葉自体を知らない不勉強な私であったが、タイトルだけで目を惹かれて手に取った。著者らは、BIは今まで「男たち」の課題であった、という。「男たち」に周縁化された者として、最もBIを必要としている、しかし、それにもかかわらず発言が無視されてきた、女性やセクシュアル・マイノリティの視点でBIを考えたい。「普遍所得」とも訳されるBIは、当事者同士や社会の様々な層の分断を超えて新たな社会をつくるための革命的な火種を秘めているのではないか…。そんな意気込みが詰まっていて、熱い。
 もっとも、BIが具体的にどのようにそんな火種になるのか、その道筋までは示していない。本書の読後は、性差別、性別役割分業に根ざした男社会での、様々な立場(日本初の女性ユニオンの結成に参加した労働者兼ひとり親、NPO法人の職員、貧困、DV被害者、大学助教、アーティスト、ケアワーカー、主婦、セクシュアル・マイノリティ)の女たち(本書は、男女の二元論が女性とセクシュアル・マイノリティを非可視化の位置に追い込んできたことを意識しながらも、むしろ意識的に可視化されてこなかった「男ではない存在」としてのオルタナティブな視点を表す言葉として「女たち」という)が経験した闘い、葛藤に圧倒され、むしろ副題の「生きづらさ」の解放への切実な願いが強烈に残る。
 女たちの切実な願いは、BIで可能になるのか。実は、BIについてはあまり細かく検討されていない。希望ではある。女の価値が低められていることと、女の賃金が低いことは、つながっている。「夫・妻・子」という「標準」から外れたシングルマザーは、諸手当を受けるために、「男と恋愛していないか」etc.とモラルハラスメントを受けなければならない。DV被害者にとっては、手当を「世帯主」が受給すること等、世帯主概念が、ネックである。BIが導入されたら、女も男も個人単位で生きるという自律性が確保される可能性がある。人々が、その属性に関わらず、自律的に社会に関与できるとなれば、それは自由と解放への改革となろう。
 しかし、BIだけで足りるわけではない、と執筆者らも認める。BI以前に、労働環境と社会保障の整備や、公的な給付を受けることへのスティグマの解消が必要、などと。さらに、それらの社会的な課題に回収されない様々な人間関係での苦しみ(女性団体内のパワハラ等)や貧しいながらのささやかな楽しみなどのエピソードも(ときにはどうやってBIのテーマに戻っていくのかとはらはらしながらも)、印象に残った。
 それにしても、ううむ。阿部彩さんが『子どもの貧困U 解決策を考える』(岩波新書 2014年)で、前作の『子どもの貧困』後、財務省のエラい方々に講演した際に、「具体的にどのような政策を打てば子どもの貧困は解決するのですか。それがわかれば、私たちだってお金をつけますよ」と言われて言葉が出なかった、その問いへの答えを出すためにもがきながら二作目を書いた旨、記していたことを思い出す。財務省のエラい方々が本著を読めば、やはり同様に言うだろう。「具体的にどのような政策を打てば」と。しかし、よくこれほどの理不尽な経験をしてもめげずに闘ってきたと称えたくなる女たちに、「それだけでは不十分」とダメ出しするつもりはない。それは筋違いというものだ。女たちの苛酷さを知って、官僚らにもわかりやすく翻訳し、説得していくには、研究者らの膨大な作業が必要だ。本書は本書で、研究者らが経験できないような、変革すべき現状についての生の声を提供し、BIへの検討を誘う手がかりを提供しているという点で、貴重なのだ。(良)
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