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服部早苗・三成美保編著『ジェンダー史叢書第1巻 権力と身体』明石書店 2011年

 日本では,ジェンダー研究への積極的な取り組みもまだ十分とは言い難い状況で,既に一部ではバッシング等の動きも生じている。このような逆風の中で,最新の学問的成果を共有し,ジェンダー史研究を発展させようという熱い思いのもと,『ジェンダー史叢書』全8巻の刊行が企画された。第1巻には,12もの論稿及び6のコラムが収められているが,最新の研究の成果を惜しみなく披露する各論稿,コラムはそれぞれ,刺激的であり,飽きることがない。企画者たちの熱い思いは見事成功したといえよう。
 第1部「身体とセクシュアリティ」中の各論稿は,総論,同性愛,宗教,「生政治」を取り上げる。このうち「社会の護持と改編」と題する松原論文は,1910年代にアメリカの医師モローが提唱した「性衛生学」の役割を明らかにする。「性衛生学」は,買売春が媒介する性病を撲滅することを目指し,その限りでは「生政治」の道具であった。しかし,実際には,女性たちをはじめとする諸改良運動の試みと共鳴し,「既存秩序の動揺を幾重ものレベルで促進する触媒」ともなった。
 第2部「権力と生殖」は,生殖をとりまく権力構造と多様な生殖コントロールに焦点をあてる。テーマは「量」の管理(人口政策・家族計画),「質」の管理(優生学),生殖補助医療である。このうち前近代の人口政策を論じる太田論文は,江戸期の捨て子や子返し(間引き),幕府や藩による出産管理策を分析する。近世後期の絵馬や教諭書は,間引きの原因を「女たちの我が儘」として批判し,姑や産婆は「子殺しを主導する鬼」として描かれる一方,「欲望に走る女どもを統制する」のは男性と描く。皆婚社会化が理想とされるようになった近世社会は,「産む身体」に対し熱いまなざしを向ける社会であり,その中で,「腹は借り物」ということばにもあるように,女性の身体が,家の存続のために注目され始めた。少子化が叫ばれる現代に,自己実現を求める女性たちが一部でやり玉に挙げられる状況を思い浮かべた。
 第3部「買売春と人身売買」は,日本における買売春の成立と展開,近現代の人身売買を扱う。若尾論文は,法的視点から法令・判例を分析し,戦後のGHQ政策や売春防止法への影響を考察し,売春労働は性的自己決定権を侵害する労働であるがゆえに人身売買の温床になるとし,女性を「売春婦/一般女子」といった分断を許さず,性的自己決定権を全ての女性に共通する課題として女性自身の手に取り戻すことの必要性を訴える。
 身体に作用する権力と権力に適応する身体の双方について多様な視角から切り込む本書が,ジェンダー史研究の一里塚となることは,間違いない。(良)

目次
序論―「権力と身体」をめぐって 三成 美保
第1部 身体とセクシュアリティ
 第1章 総論―ジェンダー/セクシュアリティ/身体 荻野 美穂
 第2章 「同性愛者」の歴史的機能 星乃 治彦
 第3章 社会の護持と改編―20世紀初頭アメリカの性衛生学者モローをめ
      ぐって 松原 宏之

第2部 権力と生殖
 第1章 近世の生殖政策と女性・家族・共同体 太田 素子
 第2章 アメリカ合衆国における生殖のコントロールと人種関係―優生学と
      優生思想をめぐって 上杉 佐代子
 第3章 中国におけるバース・コントロールの方法 小浜 正子
 第4章 戦後ドイツの生殖法制―「不妊の医療化」と女性身体の周縁化
      三成 美保

第3部 買売春と人身売買
 第1章 日本における買売春の成立と変容―古代から中世へ 服藤 早苗
 第2章 公娼制の成立・展開と廃娼運動―日本近世〜近代へ 曽根 ひろ
      み・人見 佐知子
 第3章 人身売買―性奴隷制を考える 若尾 典子
 第4章 被差別部落と買売春―藤目 ゆき
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