判例 女友だち 映画ウォーキング 情報BOX わがまま読書 リンク おたより欄
わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
朝倉かすみ他著『泥酔懺悔』ちくま文庫 2016年

 「ああ、またやってしまった。飲みすぎてしまった。「うっかり」という言葉がうらめしい。」という言葉をつぶやいたのは、私ではなく、本書の中の平松洋子。私もいい歳をした大人だ。そろそろ、後悔なんてしなくなる。と思いきや、平松が「酒の後悔を40年もしてきた」と書いているので、ああそうかまだまだ続くのか、と一応うなだれてみる。
 執筆者は、女ばかり12人。みなが酒飲みではなく、「意外ですねえ」と言われながらも下戸である中野翠らも酒にまつわるエピソードを書く。
 酒で「しまった、やらかした」という話は、ん十年も前だったら、男たちが独占していたかもしれない。しかし本書の中で、女たちが、続々と愉快そうに懺悔する。「便器を守護する大蛇のように、トイレの床にとぐろを巻いて横たわっていたこともあった」という三浦しをん、など。18歳にして厳しい修道院の寮の門限を破っただけではなく、酒の臭いをまき散らしながら救急搬送された平松のように、「正しくない側」、「だめな側」にいるのは、わるくない、と気づいてしまった女たちだ。
 下戸の中島たいこによる飲む人間に対する悪態には多少身に覚えがあり、縮こまる。「あなた飲めないの?すみませんねぇ、僕たちだけで楽しんじゃって」、「なにか飲みます?ウーロン茶?」…。私も下戸の人を前にするとつい口にしてしまいそうだ。「酒を楽しめないということは、なんと不幸なことだろうと信じて疑わないでいる」態度は、「鼻につく」。酒が飲めないということは、それがどのくらい良いものか知らないし、うらやましくないというのに。「ウーロン茶?んなもん飲まないっ。ごはん!ごはんちょうだい!」場が一瞬シーンとし、皆が口々にお店の人に、至急、この人に温かいごはんを!と頼んだという。「それが当然」と決めつける態度、私も思い当たり、反省する。
 ほろ酔い気分で書かれた気配がする極上のエッセイは、大道珠貴の「白に白に白」。自分が死んだあとの弔い酒に、「ぜひ、唸るような純米酒をふるまいたい。」。肴は?「幼いころおやつにしていた沢蟹の唐揚げなんか食べていただきたいが、いまや福岡の田舎のほうでも食べられない幻のものだろう、じゃ、…」とひとりで飲みながら愉快な空想を続ける。家。椅子をもって自由に、縁側や座敷や庭先へ移動する。それだけで小旅行のような気分。台所までわざわざ行かなくていいよう、手に届く範囲で、熱燗用のコンロ、氷、つまみや肴を用意。ふと気づく。大丈夫、そう急がずとも、身体は着実に老いているのだから、自然と死は訪れるものだ、と。みな同等。手酌しつつ、自死した知りあいたちに、乾杯。
 ここまででも、酒飲みっていいな、としみじみするが、エッセイの結びの「追伸。」がさらにいい。若い押し売り、来し。口上を聞き流して、我、「買います」。スーパーなら100円ほどの蕗の漬け物、500円なり。買い、釣り銭受け取らず。冷えた栄養ドリンクを渡しゴクロウサマと労えば、押し売り、霧のつぶか、汗か、目もと潤みおり。
 この追伸を読んだら、なんだか無性に日本酒を手酌で飲みたくなってきた。(良)
Copyright(C) 2001 GAL. All Rights Reserved.
 
TOP BACK