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上野千鶴子・信田さよ子・北原みのり『毒婦たち 東電OLと木嶋佳苗のあいだ』河出書房新社 2013年

 女とセックスの関係を考えさせられる事件に引きつけられてきた北原は、木嶋佳苗に一時期は取りつかれたようになり、「100日裁判」といわれた長期裁判を傍聴し、『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』(朝日新聞出版、2012年)をまとめあげた。取りつかれた熱情そのままのパワフルな筆に、私も「そうだ!」と膝を打つことしきりであった。さて、北原のほか、上野千鶴子と信田さよ子まで加わって、一体どれだけパワーアップすることか!?…と期待が高まるだけ高まっていたせいか、うーん…?確かに、強力な論者が2人参戦して、視点は多層的にはなったが、どうも北原ひとりが傍聴のライブ感そのままにぐいぐい読ませる前著の勢いはそがれている。
 意外にというか、予想通りというべきか、水をさしているのは、上野か。のっけから、「『婚活詐欺』なんて昔からあるどうってことない事件」と言い放つ。他方、信田は、「佳苗はね、知れば知るほど面白くなりましたよね。」と北原と共感しあう。木嶋佳苗がなぜ男性を殺さなければならなかったんだろうと不思議がる北原と信田に対し、上野は、簡単に、高額のお金を振り込ませた以上別れを匂わせたりしたら、その男がリスクになる、リスクとエイジングを秤にかけたって部分もある、などと、分析を披露する。北原と信田は「上野さんの話を聴いていると、だんだん佳苗がつまんなく感じられてきちゃったんですけど」「ほんとほんと」と白ける。上野自身認めるように、「社会学者は、市場原理で説明をするから、話がつまんないのよ」ということか。この一か所のみならず、ところどころで上野は北原と信田を白けさせている。白けた、とあの上野に言ってのけるのが、さすがの二人だ。私にとっても、北原と信田の様々な示唆のほうが面白い。おっと、「私たちは韓流にいく」と北原が言うたびに、上野が「お願い、私たちって言わないで」とたしなめる、その点だけは、私は上野に同調するのだが。
 佐野眞一が東電OLのことを男のロマンたっぷりに「堕ちた天使」「ブラックマリア」と呼ぶことに、げー!やめてくれっつーの!と罵倒する点では、3人は一致する。そんな男目線の勝手な妄想から、東電OLを救済して、語りなおそうというあたり(痛々しい面だけでなく、会社にイヤがらせパフォーマンスをしていた、など)、佐野眞一のルポ(というより思い込み炸裂記というべきか)に落ち着かないものを感じていた私は、「そうだ!」と大きく頷く。
 「レイプや痴漢の被害者に対して、必ず『心の傷』って言われることに違和感がある」(150頁)という北原の発言から始まる言説の両義性の問題。司法におけるジェンダーバイアスを批判しようとして自分自身がジェンダーバイアスの言説の維持強化につながっていないかと身がすくむことがある。「両義性は避けられない」と認識したうえで、言語化していかねばならないと三者に肩を押され、励まされたように思う。
 木嶋佳苗と東電OL以外に、角田美代子、上田美由紀、下村早苗、畠山涼香などが俎上にのせられる。オヤジメディアがある女には盛り上がり、ある女には盛り上がらない、そこはなぜかの分析や、暴力が当たり前とされているところでは暴力への我慢の閾値が高くなるとの指摘など、鋭いが、やや駆け足気味か。駆け足なだけに、若干粗さもある。たとえば、大阪二子置き去り餓死事件の下村早苗について、「生活の貧困層は情報の貧困層とまったくぴったり重なるんです」(信田、114頁)などと指摘されているが、実際は、杉山春の労作『ルポ虐待』(ちくま新書)によれば、下村は婚姻中公的な支援も利用していたし、本人によると児童相談所にも連絡していたという。児童相談所を知らないわけではないのに、つながろうとしなかったというところに、下村の経験した「貧困」が、生活の貧困というよりもっと寒々しい孤立であったことがみてとれる。そのあたり、正確なところを踏まえていればさらに深く切り込めたのではないか。
 と、若干揚げ足をとりたくなるところはあるが、しかし、この社会を、この社会で女であることを、三者が縦横無尽に語り尽くす。面白くないわけがない。ところで、社会学者の上野が発言するとつまらないと二者に盛んに言われているが、弁護士が参加していたら、より水をさすことになっただろう。木嶋佳苗など、否認しているのだから、「推定無罪」を金科玉条とする弁護士であれば、つい逐一「木嶋佳苗は否認していますから、男を多数殺害したことを前提にしては…」と口を挟みたくなっただろうから…。(良)
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