判例 女友だち 映画ウォーキング 情報BOX わがまま読書 リンク おたより欄
わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
高橋みどり 黒柳徹子 山田太一 笹本恒子ほか『沢村貞子の献立日記』新潮社 2012年

 昭和48年10月9日(火)晴
 いかと椎茸のなっとうあえ いなだの照焼 栗のふくめ煮 みそ汁
 女優として追いまくられるような忙しさの中で,朝起きるとまず「その日の献立」を考えるのが習慣だった沢村貞子。現場次第でスケジュールも様々,帰宅するや手早く着替えて台所へとんでいって料理をする。買い物だけは通いの家政婦さんに頼むので,献立を書いて渡してゆく。台詞で頭がいっぱいの日でも前の日の走り書きメモを残しておけば,さっと家政婦さんに言える。そこで大学ノートに毎晩献立と日付を書くことになった。無地の大学ノートを横四段に仕切った手書きのあっさりしたメモ。眺めているだけで,季節や取り合わせ,夫の健康を考えながら,おいしいものを作る…ちゃんとした生活を送ってきた凛とした女性の生きざまに感じ入る。
 今でいうダブル不倫の末に結ばれた大橋恭彦との生活を何より大切にし,女優として忙しいのに「仕事30%家のこと70%でやっているのよ」と言い,大橋が主宰する映画雑誌のスタッフの給料まで支払っていた。子どもはいないが,「お父さん」「お母さん」と呼び合う。大橋は,あだな「殿様」のままふるまい,沢村の料理に「おいしい」とさえ言わない(黒柳に問われて,不思議そうに「おいしくなかったら,食べないよ」と言ったとか…)。沢村は「ごめんね,とか,ありがとう,とか,父さんに言われたら,やって来られなかった」と言ったとか。プライドの高い男,支えながらも愚痴ひとつ言わない女。理性としては,「ものすごい性別役割分業!ジェンダー的にどうか!」…と思うものの,ひそかに明治の女らしい清々しさに打たれるものがある。
 大橋が先に死んでからは,料理を作らなくなった沢村。大橋の死後,唯一買ったという双眼鏡で,2人の骨を撒くのはどのへんがいいか,相模灘をしょっちゅう眺めていたという。その双眼鏡を形見として持っている黒柳徹子らが,沢村が決めた場所に,散骨した。2人の真っ白い骨がきらめきながら海の底へ消えて行った。
 沢村を敬愛する黒柳らの文章も,高橋のコーディネートして再現した料理の数々も,しみじみと味わい深い。(良)
Copyright(C) 2001 GAL. All Rights Reserved.
 
TOP BACK