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水谷英夫「感情労働と法」信山社 2012年

 何年前になるだろうか、労働法学会で「看護婦のバーンアウトシンドローム」という言葉を小耳にはさんだことがあり、印象に残っている。
 本書は、資本主義が高度に発達した結果、膨大に増加した第三次産業いわゆるサービス産業の労働の「感情的側面」に光を当てて、「感情労働者」という概念を抽出する。ある意味では人間相手の職業はすべて「感情労働」といえよう。その中でも代表的なのは、保育、看護、介護の分野の労働者である。並べてすぐわかるがこれらの職業はすべて女性が多い職業である。だから賃金も低く長時間労働であり職場環境も良好ではない。すぐれてジェンダーの問題でもある。
 ここでは、「感情労働の諸相」として、上記の3つの働き方をケースとしてあげ、その実態と感情労働がどのような特徴を持っているかを明らかにした上で、法的分析を行っている。とくに関係の深いのは「労働時間」「賃金」「職場環境」である。この3つの柱にしぼって現行労働法の規制のしかたと問題点をクリアに述べている。労働法の一般的知識というよりもすぐれて感情労働者に関係の深い、であるがゆえに現代的問題である「裁量労働」や「成果主義賃金」「職場のストレス」に焦点を合わせているので興味深く読める。
 「バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)」というのは、もっぱら対人援助に携わる人々の心理的問題として現れる。その症状は「共感疲労」というもので、患者に対して同情したり痛みを感じて共感することができなくなり、彼らに対して否定的になることであるという。これは長時間の過酷な労働の上に「白衣の天使」として振舞わなければならないというストレスから生じる。医学の進歩は看護労働にも精密さ・注意深さを要求をすると同時に患者からは「やさしさ」「いたわり」を過大なほど求められる。さらにトラウマをもつ患者の悩みを体験したり、にもかかわらず患者から拒否されたり恨まれたりすることがある。このようなときにバーンアウトが起こる。本来人間の感情を扱うのにマニュアルは有効ではない。なのに、効率化能率化のために全てをマニュアル化しよとするがゆえに生じる葛藤だろう。
 このような労働者は数多い。かれらを救うには?またバーンアウトを防ぐには?
 労働法を感情労働者にひきつけて解説しており、「メール残業」「名前のみ管理職」「モラルハラスメント」など非常に今日的な問題に迫っていて魅力的な本である。(巳)
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