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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
万城目正「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」ちくまプリマー新書 2010年

 鹿になってしまった高校教師「鹿男あをによし」以来、動物から人間へ、人間から動物へ、過去から現代へ、現代から過去へ、時間空間を跳び越す『万城目(まきめ)ワールド』にはまっている。
 猫のマドレーヌ夫人の夫は犬の玄三郎である。外国語を話し犬語も理解するということで周囲の猫たちの尊敬を勝ち取っている。普段は優雅なアカトラ猫だが大事なところで人間に変身する。かのこちゃんは乳歯の抜けるのが気になってしょうがない元気な1年生。変身はしないが、犬や猫の気持ちがとってもよくわかる。夏休みの宿題の自由研究でかのこちゃんは、「マドレーヌ夫人の散歩地図」を作る。この発想も子どもらしくてかわいいが、この地図にクラスの友だちが次々とマドレーヌ夫人の行動エリアを書き足していくところがさわやかでいい。
 無邪気で透明なように見える動物の世界、子どもの世界も悲しいことをさけることができない。
 マドレーヌ夫人の夫の犬は老いて固いドッグフードが食べ難くなっている。心を痛めたマドレーヌ夫人は、人間に変身、かのこちゃんにそれを伝える。お父さんに餌を「シニア用」に替えるようにお願いするかのこちゃん。この玄三郎とマドレーヌ夫人の静かな夫婦愛が実にうまく書かれている。かのこちゃんは、老犬を憐れんで家の中に入れようとするお父さんに反対して、二人(?)だけの世界を守ってあげる。
 そしてかのこちゃんはようやく友達になったすずちゃんが遠くインドに行ってしまうという人生最初の別れを経験する。最後に一緒にお祭りを楽しみたいと初めての手紙をすずちゃんに書いたが、すれ違って渡せない(まだ郵便で出すことは思いつけないのよ)。夫の呼びかけで町の犬が次々に「マドレーヌ」「マドレーヌ」と吠えて、すずちゃんの家にマドレーヌを案内する(犬好きの私は涙)。ここでもう一度マドレーヌはすずちゃんのお父さんにに変身。お父さんはすずちゃんをお祭りに連れて行く。祭りというにぎやかな時間の中で二人はいっそう別れの寂しさつらさを感じる。二人は「さよならするときに絶対に泣かない」という約束をする。すずちゃんが転校して行った日、かのこちゃんの歯は抜ける。玄三郎はマドレーヌ夫人に看取られて死ぬ。野良猫だったマドレーヌ夫人は居心地のよかったかのこちゃんの家をでて、寂しいけれど自由な元の生活に戻る。
 あらすじを書くと単純だし、変身ものにアレルギーを感じる人にはおもしろくないだろう。だが、変身ものは好みではない私ではあるが、大人の世界に踏み込むと失われてしまうものが「歯」に象徴されていて、あのむずがゆいイライラするような痛みをまったく久しぶりに思い出して、すっかりセンチメンタルな気分になった。犬の無愛想でぽきぽきした力強い行動力と猫のしなやかで自由独立を愛する気質がよく捉えられているのも嬉しい。数十ページほどは退屈で読むのをやめようかと思ったが、半ばごろからまた「万城目ワールド」のとりこになっていた。(巳)
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