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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
井上輝子著『新・女性学への招待 変わる/変わらない 女の一生』有斐閣 2011年11月

 いつのまにか,「女性学」という言葉を聞かなくなった。代わりに,「ジェンダー論」「ジェンダー研究」が定着。後者だと,「女性学」というときの「熱さ」…今までの学問が男性中心だと糾弾し,社会の・文化の性差別を批判するエネルギー…がクールダウンし,なんかこう,「大人しく」なってしまった印象がある。学問のメインストリームに定着させるための巧みな言説戦略かもしれない。が,はたからみると,どうも,虎穴に入って牙を抜かれてはいないかと心配でもある。
 …と,ぶつぶつ思っていたところで,おお,「女性学」をずばりタイトルにした本著が登場!それも,「新・女性学」と「新」までつく。ジェンダー研究に解消されない女性学の再起を掲げるかのようなこの潔さにまず打たれ,すぐさま手に取った。これが実に面白い。「女性差別?そんなのもうない。今さら何?」と内心思ったそこのあなたも,騙されたと思って読んでほしい。日ごろの生活でプチ違和感を抱いたこと,困ったこと,それらを女性学が俎上にのせて鮮やかに分析してくれてきたことがわかるはず。
 本著は,旧版『女性学への招待』(有斐閣,1992年)と同様,女性が生まれてから死ぬまでのライフステージの各段階に章分けするという構成を取るが,旧版から現在の20年の変化を踏まえて,最新のデータに基づき,女性であることにより直面する問題,葛藤を具体的に描出していく。入門書というにふさわしく,とても平易で読みやすく,一気に読める。現状を記述するだけにとどまらず,批判的に分析し,解決の道も具体的に探る。さすが女性学のパイオニア,差別を「糾弾」「呪詛」するような,一部には反発を招くような下手な書きぶりはしない。淡々,淡々と書き進め,読者がすとんと「この現状,何かオカシイ」と腑に落ちるように導く。これぞ,熟練の技と感嘆した。クイア研究など新しい分野からも謙虚に学ぶ。著者の飽くなき探求心と柔軟さがまた本著を豊かなものとしている。
 テーマは盛りだくさんだ。以下はほんの一部である。
 幼児期には,しつけの違い,ステレオタイプの男女像を描くテレビ,メディア等から「女の子を女らしく,男の子を男らしく」と刷り込まれていく。
 学校生活では,教科書は依然として男性中心の世界を描く。「かくれたカリキュラム」でクラスの仕事等も男女の区分けがされている。親の期待は変化し女子の進学は増えたが以前男女で違いがある。スクール・セクハラ,キャンパス・セクハラの背景分析もある。
 職場では,女性の雇用が増えたとはいえ,性別役割規範を背景に,20代後半と40代後半にピークがあり30代で谷となるM字型曲線である上,非正規雇用が増大している。セクハラはなぜ起きるのか。女性の管理職はまだ少ない。女性短時間労働者の賃金は男性一般労働者の半分以下。女性の貧困率は男性より高い。
 性に関しても,セクシュアリティの多様性,女性に対する暴力,性の商品化など多様な事象,問題が取り上げられる。
 結婚に関しては,恋愛結婚は近代の産物であること,選択的夫婦別姓導入の動き,家事労働は共働き世帯でも妻が担っていること,DV,女性にだけ離婚後再婚禁止期間が課されていること,等々。
 「母になること」の章には,少子化の背景,生殖技術が女性に大きな負担を課していること,母性愛は近代の産物,母親に重い子育ての負担があり,不安,閉塞感を抱かせていること,等々。
 人生90年時代に,主婦症候群など人生選択をめぐる葛藤に直面する女性たち。介護者の大半が女性であること,虐待される女性高齢者,女性高齢者の貧困…。
 なんと多くのテーマ,トピック!それもこの薄い一冊にまとめているのだから驚異である。
 項目だけ挙げると退屈感もあるかもしれないが,いや記述はいたって具体的で,読者を飽きさせることがない。たとえば,女子サッカー「なでしこジャパン」の活躍は女性をめぐる状況の変化の表れのようでいて,「なでしこ」という可憐な花のネーミング,国民栄誉賞の副賞が「化粧筆」だったことからして,試合が終わったら化粧して美しく「女らしく」という社会の対応が見え隠れするとすかさず指摘する。
 日本で1970年代に女性学を創立し,以後一貫して,トップランナーとして牽引してきた著者が,女性学の「熱さ」を熟成させ,女性の直面する問題を惜しみなくふんだんに,しかし,コンパクトにまとめた本著,実に,お買い得,読み読である。                                   (良)
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