判例 その他
5−2012.9.27
子の出生届不受理による住民票不作成に関し、控訴人父による住民票作成の義務付けの請求、不作成による損害賠償請求、日本国民たる地位の確認請求などにつき、いずれも却下ないし棄却したが、職権調査による住民票作成が望ましいとした例
[東京高判2012(平24)年9月27日 民集67巻6号1473頁]
[事実の概要]
5−2007.5.31と同事案である。
[判決の要旨]
(1)被控訴人区の住民たる地位及び日本国民たる地位の各確認の利益について
「市町村の区域内に住所を有する者は、市町村長による住民票の記載その他の行為によってその住民であることを公証されなくとも、当然に当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民となることはいうまでもない。・・・個別的な行政上の紛争とは別に事前に確認を求める利益を認めることはできない。」
(2)住民票作成の義務付けについて
「行政事件訴訟法3条6項1号所定の非申請型の義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害が生ずるおそれがあるときに限り、提起することができるところ(同法37条の2第1項)・・・
もっとも、上記の重大な損害を生ずるおそれの有無は現時点における事実関係に基づくものであり、将来的には手続上の負担が増大するとともに、住民票の記載に連動して処理される行政上の措置について配慮がされなければ、社会生活を営む上で支障が生ずることもあり得るので、控訴人子の福祉のためには一定の時点で住民票の記載について職権調査の方法によることも行政上の措置としては検討されてよいのではないかと考えられる。・・・
控訴人らの被控訴人区に対する区長に控訴人子に係る住民票の記載を命ずることを求める義務付けの訴えは、重大な損害が生ずるおそれがあるとの訴え提起の要件を欠くのみならず、区長において控訴人子に係る住民票の記載をすべきことを義務付ける根拠はないので明白性の要件も欠くことになり、不適法な訴えとして却下を免れない。」
[ひとこと]
却下ないし棄却されたが、理由中では、子が大きくなった将来は(選挙人名簿への被登録資格を欠くことなどをさしていると思われる)支障が生ずるとして、区に対し、職権調査の方法による作成を促している点は、特筆すべきである。
その後、2013年1月、世田谷区は、出生届出がないまま、 戸籍・住民票を職権記載・作成するに至った。
今後、裁判は、少なくとも「戸籍法49条が憲法違反であり、この解消をしない立法不作為は違法である」との国家賠償請求部分を残して続くようである。
出生届に「嫡出」か否かの記載を義務付ける戸籍法の規定が不要であることはこの裁判や行政の扱いの変更で明らかになった。
疑問と感じる1つのことを、訴え続ける当事者の熱意に敬意を表したい。
 
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