判例 親子
養子縁組・離縁

2021.3.30
抗告人が死亡した養子との死後離縁の許可を求めた事案において、原則として許可すべきであるが、養子の未成年の子が養親から扶養を受けられず生活に困窮することとなるなど、社会通念上容認し得ない事情がある場合には、許可すべきではないとした例
[大阪高裁2021(令3)年3月30日決定 判タ1489号64頁]
[決定の概要]
養子縁組は、養親と養子の個人的関係を中核とするものであることなどからすれば、家庭裁判所は、死後離縁の申立が生存養親又は養子の真意に基づくものである限り、原則としてこれを許可すべきであるが、離縁により養子の未成年の子が養親から扶養を受けられず生活に困窮することとなるなど、当該申立てについて社会通念上容認し得ない事情がある場合には、これを許可すべきではない。本件では、利害関係参加人(養子の子)の就労実績や相当多額の遺産を相続しており、利害関係参加人が抗告人(養親)の代襲相続人の地位を喪失することとなっても生活に困窮するとは認められないことなどから、社会通念上容認し得ない事情があるということはできない。このことは、抗告人に利害関係参加人を自らの相続人から排除したいという思いがあるとしても左右されないものではない。よって、本件申立てを許可する。

2020.2.25
養子縁組届の外形や、養親の意思能力の状態、養子縁組に至る従前の経緯等からすると、養子の父が養親に依頼され、その意思に沿って養子縁組届の署名を代筆したものであるとはいえず、養子縁組が養親の意思に基づくものであると認めることはできないとして、民法802条1号により、養子縁組を無効とした事例
[横浜家判2020(令2)年2月25日 判タ1477号251頁、家庭の法と裁判33号103頁]
[事実の概要]
原告らの母(A)は婚姻し、被告の父(B)をもうけた後、離婚。Aは再婚し、原告らをもうけた。BはAの再婚相手と養子縁組した。その後、Bは婚姻し被告が産まれた。BとBの妻は、Aの両親と養子縁組し、また、Bの妻は、A及びAの夫と養子縁組した。
Aは、2015年2月、認知症と診断された。2016年1月、Aは骨折し入院した。同年6月、Aは、再度、骨折し入院した。入院中の経過記録によれば、「当院入院歴あるが本人覚えていない。日付、今回の受傷機序も答えられない。」などの記載があった。また、同月、長谷川式簡易知能スケールの結果は、30点満点中5点であった。
2016年7月頃、Bは、養子縁組届出用紙を準備し、その「養子になる人」の「養子」欄を被告に署名させ、印鑑については、Bが管理していた印鑑を押印させた。「養親になる人」の「養母」欄には、BがAの署名を代筆し、Bが管理していた印鑑を押印して、同年8月、縁組届を役所に提出した。なお、Aは、Bに賃貸借契約書等の署名を代書させることがあった。
[判決の概要]
「本件養子縁組届の「養親になる人」欄中の「養母」欄のAの署名は、Bの筆によるものである。また、Aの署名の横に押された印章についても、Aのみが管理していた印章によるものと認めるに足りる証拠はなく、被告の署名の横に押印された印影と酷似していることから、被告の家庭内において世帯主であるBが管理して、家族で共用していた印鑑によるものと推認される。そうすると、本件養子縁組届の外形からは、本件養子縁組届のAの作成部分がAの意思に基づいて作成されたとは認められない。
この点について、被告は、BがAの意思を確認した上で、その意思に基づき、当時文字を書くのが難しい状態であったAに依頼されて、代筆したものであると主張する。しかし、Aは、平成27年2月●日において既に「認知症」と診断されていたこと、平成28年6月●日の医療記録によれば、「当院入院歴あるが本人覚えていない、日付、今回の受傷機序も答えられない。」などとの記録があったこと、平成28年6月23日に実施された長谷川式簡易知能スケールの結果は30点満点中5点というかなり低い点数(一般的に後見程度に相当する。)であったことなどに照らして、本件養子縁組当時、Aの意思能力はかなり低下していたものとうかがわれるから、Aが、本件養子縁組がされることを十分認識した上で、Bがその署名を代筆することに同意したと認めるには合理的な疑いが残る。」として養子縁組の無効を確認した。
被告は、Aがこれまで賃貸借契約書等の署名をBに代筆させていたことから、本件養子縁組届も同様に署名の代行をさせたものであると主張しているが、本件養子縁組届の用紙には、「必ず本人が署名してください」との注意書きが付されており養子縁組の重要性に照らしても、Aが賃貸借契約書等と同様に被告の父に署名を代筆させたとするには疑問がある。なお、本件養子縁組届がされた後に、役所からAの住所に通知がされたはずであるが、Aがその通知を見たという証拠はなく、仮に、Aに通知を見せたとしても、その精神状態に照らして、養子縁組がされたことを理解できる状況であったか疑問である。
被告は、Aが、被告が20代の年齢の頃から、被告との縁組意思及び届出意思を有していたと主張する。確かに、原被告らの属するD家において養子縁組が代々行われてきていたことは認められるが、Aと被告との養子縁組の話が、被告が20代の年齢の頃(平成5、6年頃)から出ていたのであれば、それを、20年以上にわたって実行せずにいたことは不自然である。また、被告は、D家の財産を分散させないためという動機を主張するが、そうであれば、遺言という手段もとれたはずであるところ、Aが遺言を作成していないのも不合理であるといえる。
以上の次第で、本件養子縁組届のAの自署部分について、BがAに依頼され、その意思に沿って署名を代筆したものであるとする被告の主張は採用することができず、本件養子縁組がAの意思に基づくものであると認めることはできない。その余の主張を判断することなく、原告らの請求は認められる。

2019.7.9
祖父と縁組をした抗告人が、祖父の死亡後に家庭裁判所に離縁の許可を求めたところ、縁組が財産の相続を目的としてされたものであっても、養親と抗告人との間に法定血族関係を形成する意思がある限り、直ちに縁組を無効とすることはできず、死後離縁の申し立てが法定血族関係の道義に反する恣意的で違法なものとも認めるに足りる事情もないとして、申立てを許可した例
[東京高裁2019(令和元)年7月9日決定 家庭の法と裁判33号67頁]
[事実の概要]
養親はCとの間に実子D、E、F、Gをもうけ、この4名のうち、DにはHが、FにはIが、Gには抗告人がそれぞれの子(養親にとっては孫)として出生した。他方、Eについては、配偶者又は直系卑属は存在しなかった。養親は、H、I及び抗告人との間で縁組をし、その後死亡した。Cは既に死亡していたことから、養親の法定相続人は、D、E、F、G、H、I及び抗告人の7名であった。7名は遺産分割協議を成立させ、養親の意向に沿って、実子Eと孫H、I及び抗告人の4名が、養親の財産を相続した。抗告人は、家庭裁判所に養親と離縁する申し立てをしたが(民法811条6項)、原審は、養親と抗告人との縁組は縁組意思を欠き無効であるとして、死後離縁の申立ての対象を欠き不適法であるとして、抗告人の申立を却下したため、抗告人が即時抗告した。
[決定の概要]
養親は、自己の財産を子らのうち配偶者及び子のないEに加えて、孫であるH、I及び抗告人の3名に直接相続させることを目的として孫ら3名と縁組みをし、養親の相続人らは、生前の養親の意向に従い遺産分割をしたことが認められる。他方、抗告人が縁組前に扶養義務を負っていたのは、既に死亡していたものを除き、直系血族である抗告人の父、母、養親(祖父)、曾祖母の4名であり(民法877条1項)、三親等内の親族であるE、D及びFに対しては家庭裁判所の審判により扶養義務を負う可能性があるにとどまっていたところ(同条2項)、養親との縁組によって、抗告人は、Eら3名に対しても家庭裁判所の許可を待たずに扶養義務を負うに至ったことが認められる。もっとも、D及びFにはいずれも配偶者及び直系卑属がおり、抗告人が両名の扶養義務を履行する必要が生ずることは想定し難く、養親との縁組によって実質的な変化が生じたのはEに対する扶養義務に限られており、仮に死後離縁を許可したとしても、抗告人とEとの法定血族関係が終了するわけではなく、抗告人は、家庭裁判所の審判によってEの扶養義務を負う可能性があること、抗告人による死後離縁は、Eの実のきょうだいであるD、F及びGのEに対する扶養義務に消長を来すものではなく、死後離縁の許可がEにとって不利な結果となる事態は想定し難いこと、Eは本件遺産分割によって土地7筆、預貯金など他の相続人と比較して多くの遺産を取得し、長く会社勤めをしていたこともあり、生活するに十分な資産を有するとの抗告人の主張に疑いを抱かせる資料もない。そうすると、本件申立てが縁組によって負担した扶養義務を免れるためにされたものとは認められない。その他、本件申立てが、生存法定血族である抗告人本人以外によるものである、養親の親族による強要に基づくなどといった事情や専ら祖先の祭祀を免れる目的でされたというような事情を見出すことはできず、孫に直接遺産を相続させるために縁組をすることの当否は別として、本件申立てが法定血族間の道義に反する恣意的で違法なものであるとは認めるに足りない。

2019.5.27
ベトナム在住の日本人夫婦とベトナム国籍の子の特別養子縁組につき日本の裁判所の国際裁判管轄を認めた例
[東京家裁2019(令和元)年5月27日審判 家庭の法と裁判28号131頁]
[事実の概要]
ベトナム在住の日本人夫婦がベトナム国籍の子との特別養子縁組を日本の家庭裁判所に申立てた。ベトナムではすでに養子縁組が認められていた。
日本の裁判所の管轄の有無は審判等の申立時を基準として決定される(家事事件手続法3条の15)ところ、本件は2018(平成30)年中に申立てられており、本件申立て時において、本件に関する国際裁判管轄の明確な規定は存在しなかった。
その後、2019(平成31)年4月より施行された人事訴訟法等の一部を改正する法律により、養子縁組の裁判管轄については、「養親となるべき者又は養子となるべき者の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるときは、管轄権を有する」(家事事件手続法3条の5)こととなったが、いずれにしても申立時には、本件は、明確に日本の裁判所に裁判管轄が認められる事案ではなかった。
[審判の概要]
ベトナムで養子縁組が成立していたとしても、将来、未成年者が来日した際の滞在期間や就学等における支障を回避するために改めて日本において特別養子縁組を成立させる必要があったこと、申立人らが主としてベトナムで生活しているものの1年のうち相当期間は日本に滞在していること、滞在時には日本での養親の登録住所地に滞在しておりそれは居所ともいえること、養親はいずれも日本国籍者であること等の諸事情を考慮して、結果として裁判の拒否となることを回避するためのいわゆる緊急管轄的な国際裁判管轄が認められた。
そして、すでにベトナムにおいて養子縁組が有効に成立しているうえ、日本の家庭裁判所調査官においても調査がなされて子の福祉かなうことが確認されたことから、特別養子縁組が認容された。

2014.2.10
親の同意がなくても特別養子縁組が認められた事例
[宇都宮家裁2014(平成26)年2月10日審判 2014年4月9日付毎日新聞朝刊]
[事実の概要]
出生直後から女児を7年間育ててきた栃木県の50代の夫婦が、女児と特別養子縁組の成立を求めた。なお、女児は実の親から虐待を受けた経験はない。
[審判の概要]
毎日新聞の報道によると、審判は、「実の親からは女児との交流や経済的支援の申し出もない。新たな親子関係を築くことが子の福祉のためになる」として、実の親の同意がなくても、特別養子縁組の成立を認めた。
[ひとこと]
民法817条の6は、特別養子縁組の成立には原則として実父母の同意をとし、虐待がある等例外的な場合は例外として同意を要しないとしている。本件事案では夫婦はこれまで2度、宇都宮家裁に女児との特別養子縁組を求めたが、いずれも実の親の同意がないとして退けられていたという。

2012.3.2
性別の取り扱いを女性から男性に変更する旨の審判を受けた夫と、その妻が、第三者から精子の提供を受けて妻が出産した子との間に特別養子縁組を申し立て、同申立てが認められた事例
[神戸家裁2012(平成24)年3月2日審判 家月65巻6号112頁]
[事実の概要]
申立人夫は、2007年に性別の取り扱いを女性から男性へ変更する旨の審判を受け、2008年に申立人妻と結婚をした。その後、両者は第三者の精子提供を受け、2010年に、申立人妻が子を出産した。同夫婦は、当該子を継続して監護・養育している。そして、2011年に同夫婦は、当該子を特別養子とする特別養子縁組成立の申立て神戸家庭裁判所に対して行った。
[決定の概要]
本決定は、特別養子縁組の各要件について、これまでの経緯等の事実を認定した上で、民法817条の3から同上の6及び8の規定する要件を全て充たすと判断した。なお、民法817条の6(実父母の同意)については、「精子提供者の同意はないが、精子提供者は、事件本人(子)を認知しておらず、法律上事件本人の父といえないから、その同意は不要であると解される」とした。
さらに、同条の7の要件(子の利益のための特別の必要性)については、「事件本人の出生の経緯やその後の監護状況等に照らすと、本件特別養子縁組には、事件本人と精子提供者との親子関係を断絶させることが相当であるといえるだけの特別の事情があり、事件本人の利益のために特に必要であると認められるから、その要件を充たすといえる」と判断した上で、申立人らの特別養子縁組成立の申立てを相当とし、同人らの間に特別養子縁組を成立させた。

2012.2.23
養子となる者が6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されていた(民法817条の5但書)として特別養子縁組を成立させた事例。
[裁判所]福岡高裁
[年月日]2012(平成24)年2月23日決定
[出典]家月64巻9号48頁
[事実の概要]
抗告人X夫妻は特別養子縁組を視野に入れて、平成17年に○○県の○○センターに里親登録をし、平成18年に事件本人(当時3歳9カ月)を紹介された。その後、X夫妻は事件本人との間で、面会、外泊による交流を続けた。上記センターは、平成20年にX夫妻に対し、里親委託決定をする予定だったが、夫婦の一方の入院により延期され、上記センターは平成21年に6歳2カ月の事件本人につき里親委託決定をした。事件本人は本件特別養子縁組申立て時(平成22年)には、7歳11カ月になっていた。
原審は民法817条の5ただし書の「引き続き」の監護がないとして申立てを却下した。X夫妻は抗告した。
[決定の概要]
民法817条の5但書の趣旨は、特別養子となる者が6歳未満の時から養親となる者に現実に監護されている場合には、その時から事実上の親子関係があるものといえることから、年齢要件の緩和を認めたものであるとした。
本件の場合、@X夫妻が特別養子縁組を利用することを想定して里親登録をし、事件本人と交流を深めていること、A平成20年に里親委託決定を予定していたこと、BX夫妻の一方の入院のため同決定が延期されたものの決定が取りやめとなったものではないこと、CX夫妻の一方が日常生活に復帰後、里親委託決定を待ち望み、事件本人と従前以上の頻度ないし密度で交流を持っていたこと、D事件本人が平成19年頃からX夫妻のことを「お父さん」「お母さん」と呼ぶようになっていたこと、E事件本人がX夫妻宅を自宅と認識し始め、X夫妻宅での生活を望むようになっていたこと、FX夫妻も事件本人に対し父母として接して良好な関係を築いていたこと、G本件機関(上記センター)も、事件本人とX夫妻が特別養子縁組を行うものと認識し、そのように指導していたことを指摘し、これらの事実によれば、事件本人が6歳に達する以前から、事件本人に対して、相当程度、直接的な監護を行う機会があり、X夫妻のみならず、本件機関、そして本件施設においても、X夫妻が里親として事件本人に接しているものと認識していたことを認めることができるのであり、X夫妻の一方が日常生活に戻り、事件本人と密接な交流を再開した平成20年頃からは、X夫妻らによる事件本人の監護がされていたものというべきであるとして、民法817条の5但書の要件を満たすものとして特別養子縁組を成立させた。
[ひとこと]
原審は当事者の意思・認識には言及せず、交流の程度や里親委託決定が行われるまでの経過を厳格にとらえ、「引き続き」の監護がないことを理由に申立てを却下した。
一方で、本決定は、民法817条の5但書の趣旨を、特別養子となる者が6歳未満の時から養親となる者に現実に監護されている場合には、その時から事実上の親子関係があるものといえるところから、年齢要件を緩和したものであるとした上で、事件本人とX夫妻の交流状況や、事件本人やX夫妻、関係機関の意思・認識等を考慮して、民法817条の5但書の要件を満たすと判断した。子の福祉にかなう判断と考えられる。

2010.9.3
認知症等に罹患した養親に養子縁組の意思がなかったとして養子縁組無効確認請求が認容された事例
[裁判所]名古屋家裁
[年月日]2010(平成22)年9月3日判決
[出典]判タ1339号188頁
[事実の概要]
高齢の乙野梅は、平成15年頃、体力が衰え、長女丙川桜子夫婦や同夫婦の子花子の世話を受けるようになり、平成16年頃から、花子との養子縁組を望む発言をした。他方、梅は、二男夫婦から世話を受けることもあり、二男の妻に対しては自分の世話を同人に依頼する発言をしていた。
梅は、平成19年1月、高血糖性昏睡のため甲病院に入院し、認知症、糖尿病等と診断され、視力・聴力・言語とも相当低下し、歩行、食事、更衣、入浴、洗面、排泄につき全面的に介助が必要な状態であった。転院先の乙病院においても、認知症、糖尿病等と診断され、寝たきり、胃瘻からの経腸栄養、失語の症状を呈し、担当医と意思疎通をすることができない状態であった。
この状況下で、梅の夫太郎が丙川桜子に対し、梅の意思に基づき梅と花子間で縁組をする旨伝え、桜子夫婦及び花子がこれを承諾するに至った。縁組届の「養親になる人」欄に梅の夫太郎が梅の署名押印をし、「養子になる人」欄には花子が署名押印して縁組届が作成され、平成19年11月、花子らによって提出された。梅の後見人Xは、花子に対し、縁組無効確認の訴訟を提訴した。
[判決の概要]
(梅の)行動や、同人の当時の年齢・心身状態からすると、同人の弁識力・判断力等にかなりの衰えがあったと認められ、その場の状況次第では、意思の如何とは別に、たやすく身近な人の意向に沿う発言をするような精神状態にあったと推認できる。また、梅が甲病院に入院した後においては、花子や桜子夫婦は、太郎を通じて梅の縁組意思を確認するのみであったというのであり、実際に太郎が梅の縁組意思を確認した事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、梅が被告との養子縁組を希望する発言をしたからといって、真に被告との養子縁組の意思があったと言うことはできない。
のみならず、上記認定事項に照らせば、梅は、自ら本件縁組届に自署押印しておらず、太郎が本件縁組届の「養親になる人」欄の所定事項及び梅の署名押印を行ったにすぎず、梅が、本件養子縁組に当たって、太郎に本件縁組届の署名押印の代行を依頼した事実や、本件養子縁組を追認した事実を認めるに足りる客観的な証拠はない。
しかも、梅は、本件養子縁組の約10カ月前の平成19年1月19日に高血糖性昏睡に陥って甲病院に入院し、同年6月18日に乙病院に転院しているところ、認知症等と診断され、寝たきりのため全面的に介助が必要な状況にあり、医師等の問いかけに反応せず、呼名に「はー」と応えるのみで、意味不明の奇声を発し、意思疎通が可能な状況ではなかったのであるから、本件養子縁組を行うに足りる意思能力があったとは認め難い。
[ひとこと]
養子縁組に必要な「縁組意思」は、実際に養親子関係を形成する意思(実質的意思)であるとされるが、高齢になり養親の判断能力が低下した段階で縁組が行われることも少なくない。また、高齢者は、複数の子や孫それぞれに、多少迎合して異なる意思表示をしていることは珍しくなく、本件もその一例である。かつ、認知症の程度を考慮し、縁組を行うに足りる能力がなかったと認定された。遺言無効と同じく、相続に直結するので、今後も同様の紛争は続くと思われる。

2009.8.14
神職を世襲する社家の承継を主な目的として、未成年者について養子縁組許可の申立てをしたが、却下された事例
[裁判所]佐賀家裁
[年月日]2009(平成21)年8月14日審判
[出典]家月62巻2号142頁
[事実の概要]
申立人(当時85歳)の配偶者の生家は、〇〇神宮のいわゆる社家として、代々神宮を輩出してきた家系であり、申立人の配偶者も社家を承継し、〇〇神宮の大祭の支援や地域活動に従事してきた。申立人ら夫婦は、実子がいないため、将来、申立人の姪の子の二男である未成年者(10歳)に社家を承継してもらうため、養子としたいと希望している。未成年者の両親は養子縁組を承諾したが、縁組後も未成年者と一緒に生活し監護養育したいと考えている。申立人は配偶者とともに、家庭裁判所に養子縁組許可の申立てをした。なお、申立て後に申立人の配偶者が死亡したため、配偶者の申立てに係る部分は事件が終了している。
[審判の概要]
神職を世襲する社家の承継を主な目的とする養子縁組について、未成年者が本件養子縁組により相続等を通じて申立人所有の不動産を譲り受けることになるという財産上の利益がないではないものの、将来は、上記不動産に居住し、社家を継いでその活動に従事することが強く期待されることになり、未成年者の将来をかなり制約する可能性が生じること、実父母がこれを承諾し、未成年者も一応了解する意向を示しているとしても、未成年者は10歳であり、自分の将来設計について的確に判断し得るだけの能力を備えているとはいえず、本件養子縁組の目的や社家の役割等を十分に理解するには至っていないこと、今後も引き続き実父母の下で適切に監護養育されることが期待される状況にあることなどの事情に照らすと、現時点において本件養子縁組は未成年者の福祉にかなうとはいえず、これを許可することはできない。よって、本件申立ては却下する。
[ひとこと]
未成年者を養子にする場合に原則として家庭裁判所の許可が必要になるが(民法798条)、従来、家名承継や祭祀承継者の確保を目的とする申し立ては許可されていない。本件も社家の承継が主な目的とされ、未成年者の福祉を考慮し、却下された。

2009.8.6
認知症の老人のした養子縁組届出が縁組意思を欠き無効とされた例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2009(平成21)年8月6日判決
[出典]判タ1311号241頁
[原審]東京家裁2009(平成21)年1月22日判決
[事実の概要]
甲女は、平成16年、全財産を甲女の亡姉の長男であるX男の義理の姉乙女に遺贈する旨の公正証書遺言(@遺言)を作成したが、平成18年9月には、甲女とその亡夫の姉の孫であるY女に全財産を相続させる旨の遺言書(A遺言)を作成した。しかし、A遺言は、遺言書としての様式を備えていない無効のものであった。
平成18年11月以降、甲女はアルツハイマー型老年性痴呆あるいは痴呆疑と診断された。 さらに平成19年1月、甲女はY女と養子縁組をした。この縁組がなされる際、甲女に対して、@遺言についての説明がなされたり、@遺言の内容と養子縁組の両者を対比して甲女の意思の確認がなされたりすることはなかった。
なお、甲女の法定相続人はX男のみであったが、上記養子縁組がなされることにより、法定相続人はY女のみとなった。
X男は、上記養子縁組は、甲女の縁組意思を欠き無効であるとして、養子縁組無効確認訴訟を提起。原審がこれを認容し、Y女が控訴した。
[判決の概要]
甲女には、老年性認知症の症状が出る前から、乙女に全財産を譲りたいという意思と、Y女に全財産を譲りたい意思とが併存しており、どちらか一方が真意であるとは言えない状態であったと認定した上で、このような状況からすると、上記養子縁組届は、甲女の二つの相矛盾する意思のうちの一つに基づくものであり、老年性認知症に罹患して著しい記銘力・記憶力障害が生じている甲女については、「他の考えが存することを注意喚起した上で、自らの判断により矛盾する二つの意思のいずれかを選択するよう促すことがない限り、相矛盾する二つの意思のいずれかを優越した意思として認めることはできない状況にあった」として、結局、上記養子縁組は、甲女の縁組意思を欠き無効であるとした。
[ひとこと]
認知症の老人が相矛盾する二つの意思を有していたとし、そのうちの一つに基づく縁組意思を否定したケース。

2009.5.21
実父の同意がないが、同意権の濫用にあたるとして特別養子縁組を成立させた事例
[裁判所]青森家裁五所川原支部
[年月日]2009(平成21)年5月21日審判
[出典]家月62巻2号137頁
[事実の概要]
平成16年、1歳10カ月のAを里親委託された申立人夫婦は、同年にAとの特別養子縁組の審判を申し立てたが、Aの実父の同意が得られなかったことからいったん申立てを取り下げた。申立人夫婦はその後もAを生育し、平成20年に、再度Aとの特別養子縁組の審判を申し立てた。
なお、Aの実兄も、児童相談所への通告や乳児院への入所措置等が繰り返されていた。Aの実父母は離婚し、実父は、再婚者との間に子をもうけているが、その子についても児童養護施設への入所や里親委託等がなされていた。一方実母は、アルバイト等をしつつ男性と同棲するなどの生活を送っており、Aの特別養子縁組に同意していた。
[審判の概要]
申立人夫婦は、経済的・社会的に安定していること、共にAに対する十分な愛情に裏付けられた強い養育意欲を示しつつ、Aに対して適切な監護養育を継続していること、及び、Aは1歳10カ月の時から現在まで申立人夫婦のもとで5年以上の間にわたって順調に生育していることを認定した上で、実父母の各実情からすれば、子の利益のための特別の必要性(民法817条の7)は認められるとした。
さらに、実父の同意がない点については、Aの実兄の状況や実父の再婚相手との間の子の状況、実父がA引き取りの手続を何らしていないこと、実父の照会書等への不応答、審判期日への不出頭などの事実からすれば、実父の不同意は同意権の濫用に当たるとして、子の利益を著しく害する事由がある場合(民法817条の6但書)に該当するとした。

2009.5.15
@相続財産法人が養子縁組無効確認訴訟の原告適格を有する、A財産を相続させることのみを目的として行われた養子縁組は縁組意思を欠き無効である、とした事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2009(平成21)年5月15日判決
[出典]判時2067号42頁
[事実の概要]
Aは、夫死亡後、隣人のBに身の回りの世話をしてもらっていた。Bの長女Y(控訴人)は、Bと同居しており、隣人としてAと面識はあったものの、Aとの交流は全くなかった。平成14年、Aは持病が悪化して入院したが、入院中に、Aを養親、Yを養子とする縁組届が作成され、Bが本件縁組届を役所に提出した。Aの入院中、BがAの世話をしており、Yは何回か見舞いに訪れたのみであった。Aの退院後も、Aの身の回りの世話は専らBが行っており、Yが行うことはなく、YがAの家に泊まったこともなかった。また、Yは、Aの親族関係を把握しておらず、同人から死後の祭祀について依頼されたこともなかった。平成16年、Aは再入院し病院で死亡したが、その間、YがAを見舞うことはほとんどなかった。B又はYは、Aが死亡した翌日にA名義の貯金口座を解約し払戻しを受けており、翌年1月には、Aの預金等の口座を解約し払戻しを受け、同年2月には、YがA所有不動産につき相続を原因とする所有権移転登記手続を行っている。
Aの夫とその前妻との間の子C及びDは、Aの相続財産管理人の選任を求める審判を申立て、X(被控訴人)がAの相続財産管理人として選任された。Xが、Aの相続財産法人を代表してYに対し、Aを養親、Yを養子とする養子縁組の無効確認訴訟を提起したところ、原審は、本件訴訟の適法性を認めたうえ、本件縁組は、縁組意思を欠き無効であるとして、Xの請求を認容した。これに対し、Yが@相続財産法人は養子縁組無効確認訴訟の原告適格を有しない、AA及びYには縁組意思があったなどと主張し控訴した。
[判決の概要]
@について「相続財産法人は、相続開始時における被相続人に属していた一切の権利義務及びその他の法律関係を承継するのであるから、この面では、被相続人の権利義務を承継した相続人と同様の地位にあるということができる」「Aの相続財産法人である被控訴人は、本件養子縁組が無効であるか否かによって相続に関する地位に直接影響を受ける者として、本件養子縁組の無効確認を求める法律上の利益を有するというべきであり、原告適格を欠くとはいえない。」
Aについて「民法802条1号にいう「縁組をする意思」(縁組意思)とは、真に社会通念上親子であると認められる関係の設定を欲する意思をいうものと解すべきであり、したがって、たとえ縁組の届出自体について当事者間に意志の合致があり、ひいては、当事者間に、一応法律上の親子という身分関係を設定する意思があったといえる場合であっても、それが、単に他の目的を達するための便法として用いられたもので、真に親子関係の設定を欲する意思に基づくものでなかった場合には、縁組は、当事者の縁組意思を欠くものとして、その効力を生じないものと解すべきである。そして、親子関係は必ずしも共同生活を前提とするものではないから、養子縁組が、主として相続や扶養といった財産的な関係を築くことを目的とするものであっても、直ちに縁組意思に欠けるということはできないが、当事者間に財産的な関係以外に親子としての人間関係を築く意思が全くなく、純粋に財産的な法律関係を作出することのみを目的とする場合には、縁組意思があるということはできない。」「本件養子縁組による親子関係の設定は、Bの主導のもと、専ら、身寄りのないAの財産を控訴人に相続させることのみを目的として行われたものと推認するほかはない。以上によれば、本件養子縁組は、当事者の縁組意思を欠くことにより、無効であるというべきである。」
[ひとこと]
縁組意思については、婚姻意思同様、形式意思で足りるか、あるいは実質意思が必要か(通説・判例)との議論がある。本判決は後者を採用した判例の1つ。「真に社会通念上親子であると認められる関係の設定を欲する意思」が必要であるとしている。
しかし、相続税節税あるいは、財産相続のための孫養子が広く認められているように、婚姻意思と異なり、実質意思の判断は容易ではない。本件は人間関係がまったくないことがポイントであったようである(AとBが縁組していたら有効になったと思われる)。

2008.12.26
代理懐胎者と子の間に母子関係が成立するとの最高裁決定を前提として、祖母が代理出産した娘夫婦の子と娘夫婦との特別養子縁組の成立を認めた事例
[裁判所]神戸家裁姫路支部
[年月日] 2008(平成20)年12月26日審判
[出典]家月61巻10号72頁
[事実の概要]
X1及びX2は婚姻した夫婦であるが、X2は身体上の理由から出産することができなかった。そこで、X2の実母甲がX1の精子とX2の卵子を受精させた胚の移植を受けて妊娠し、丙を出産した(以下、「本件代理出産」という。)。X2は、丙の出生に合わせて母乳を出すための薬を飲み、丙に与えた。また、X1とX2は、出産後まもなく丙を引き取り、以後約10ヶ月、丙を監護養育してきた。X1及びX2は、丙との特別養子縁組を申し立てた。
[審判の概要]
代理出産の法制度については検討の余地があるとしつつも、出生した子と血縁上の親との間の関係については、出生した子の福祉を中心に検討するのが相当との見解を示した上で、本件においては、X1X2夫婦の養親としての適格性及び丙との適合性にはいずれも問題がないこと、X1X2は丙の血縁上の親であり、丙を責任を持って監護養育していく真摯な意向を示していること、甲乙夫婦はX1X2夫婦が丙を責任をもって育てるべきであると考えており、丙を自身らの子として監護養育していく意向はないことなどの事情をあげ、X1X2と丙との特別養子縁組申立てを認めた。
[ひとこと]
代理出産の場合、出生した子の母は、その子を懐胎し出産した女性となることについては、最高裁決定平成19年3月23日(2007.3.23)本件では、この平成19年最決の判断を前提としつつ、精子及び卵子提供者である夫婦から出生子との特別養子縁組の申立てがなされ、申立てが認められた。

2007.9.20
後見人が自己の直系卑属である未成年被後見人を養子とする場合の、家庭裁判所の許可の要否及び審査権限について示した事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2007(平成19)年9月20日決定
[出典]判時2033号24頁 判タ1260号330頁
[事実の概要]
    X(申立人)
    |
    A=B(その後、AとBは離婚。Aが親権者となるが、虐待で親権喪失)
     |
     C
X(申立人)の長女Aは、Bとの間にCを出産した。AとBは、Cの親権者をAと定めて協議離婚したが、AはCに対する児童虐待により親権を喪失し、XがCの未成年後見人に選任された。その後、Xは、Cを養子とすることの許可を求める審判を申し立てた。
原審は、「本件養子縁組が許可されても、当分、Cの生活の実態はほとんど変わらないというべきであり、現時点においてあえてXとCとの間で養子縁組をすべき必要性は乏しい。むしろ、BがCの養育意欲を示していることやCの年齢からすれば、現時点においてBが親権者となる余地を閉ざす形にしてしまうことは、相当とはいえない。これらの事情を考慮すると、本件養子縁組が未成年者の福祉に適うものということはできない」として、Xの申立を却下した。Xは、抗告した。
[決定の概要]
後見人と被後見人の縁組につき家庭裁判所の許可を必要と定める民法794条は、親権者と同様の財産管理権を有する後見人が被後見人と縁組することを認めると、後見人の財産管理に対する民法の厳格な規制を回避することが事実上可能となることから、その危険を排除する趣旨で設けられた規定と解される。
次に、民法798条は、未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得るべきことを定めているが、同条ただし書きは、未成年者が自己又は配偶者の直系卑属であるときは、そのような縁組が当該未成年者の福祉に反するようなことは通常生じないであろうとの立法政策上の判断から、家庭裁判所の許可を不要とする旨定めたものである。
本件は、Xが自己の直系卑属であるCを養子とする場合であるから、Cの福祉確保の観点から本件縁組の当否を審査する必要がないことは明らかであり、民法794条の規定の趣旨に従い、Cの財産的地位に対する危険を排除するという観点から吟味を加えれば足りるのであって、そのような財産管理上の問題が認められない場合には、本件縁組に許可を付与するのが相当というべきである。よって、原判決を取り消し、養子縁組を許可する。
[ひとこと]
民法794条と798条の趣旨について通説的立場に基づいた解釈を示した上で、本件のようなケースでは民法798条但書により許可不要であり、また未成年者の福祉に適うか否かについても審査不要とした。その結果、実父が子の親権者となる道を事実上閉ざした。未成年者の福祉の観点から審査した原審とは対照的な決定となった。
しかし、民法798条但書については、「連れ子との縁組が子にプラスになるか等専門家が慎重に調査した上で家裁の判断をあおぐべき」「立法論として疑問」「有害」との学説も有力である。

2007.7.20
養親の一人と養子がイラン人の養子縁組事件における本国法を日本法とした上,養子縁組の可否についてイラン法を適用することが公序に反するとした事例
[裁判所]宇都宮家裁
[年月日]2007(平成19)年7月20日審判
[出典]家月59巻12号106頁
[事実の概要]
イラン人男性Aと日本人女性Bの夫婦が,Aの妹DとAの元夫E(ともにイラン人)の未成年子Cを日本国内で養育している。D(イランでの離婚判決で,Cの養育権を取得)は,ABとCの養子縁組を強く望んでいる。Eは所在不明である。ABは共にCとの養子縁組を求めて本申立に及んだ。
[審判の概要]
イランは宗教により身分法を異にする人的不統一法国であり,所属する宗教如何によって当該イラン人の本国法を決定しなければならないと解されるところ,Cの所属する宗教は未だ決まっていないことが認められるから,Cの本国法は,イランの規則に従い指定される法がないため,Cに最も密接な関係がある日本法であると解される(通則法40条1項前段,後段参照)。
イスラム法においては,養子縁組は認められていないので,AとCの関係においては,イスラム法の適用により,養子縁組は認められないことになるところ,このような結果は,日本国民法を適用した結果と異なる(BとCの関係においては,養子縁組が認められる)等の理由から,不当である。したがって,AとCとの養子縁組の可否に関して,イスラム法を適用することは,公序に反するものであり,通則法42条により,その適用を否定し,日本国民法を適用し,養子縁組を許可した。
[ひとこと]
イラン法を公序によって排斥し,日本法で養子縁組を許可した審判は,イランによって承認されないことになり,かえって子の福祉に反する結果となり得るとの批判もある(植松真生「養子縁組事件におけるイラン人の本国法の決定およびイラン法適用の反公序性」『ジュリスト』1376,333頁ないし335頁)。

2002.12.16
安定した監護環境を用意せず、かつ明確な将来計画を示せないことのみをもっては、民法817条の6但書及び同条の7の要件を満たしているということはできないとされた事案
[裁判所]東京高裁
[年月日]2002(平成14)年12月16日決定
[出典]家月55巻6号112頁
[事実の概要]
YはAと婚姻し、BCをもうけた後、平成12年1月1日にDを出産したが、そのころYとAとは事実上の別居状態にあったことから、Aは、Dが他の男性の子ではないかとの疑念を有しており、Dを特別養子に出すことに積極的であった。Yは渋々これに同意し、同月24日、DはX夫婦に預けられ、監護養育された。X夫婦による監護養育に特段の問題は見られない。その後Yは、特別養子縁組の同意撤回書を家庭裁判所に提出し、平成13年12月3日に受理された。X夫婦がDを特別養子とする旨を申立てたのに対し、原審は、@Yが安定した監護環境を用意せず、かつA明確な将来計画を示せないのでは、Dの生活を不安定にし、健全な成長に多大な悪影響を及ぼすので、民法817条の6但書の事由があり、同法817条の7等の要件も満たすとして、申立を認容。Yが即時抗告。
[決定の概要]
抗告審は、次の理由で原決定を取消し、差戻した。
民法817条の6但書「その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」とは、虐待、悪意の遺棄に比肩するような父母の存在自体が子の利益を著しく害する場合をいうところ、上記@及びAをもって直ちに上記但書の事由にあたると結論付けることはできない。
民法817条の7の「父母による養子となる者の監護が著しく困難」である場合とは、虐待や著しく偏った養育をしている場合を指し、「その他特別の事情がある場合」とは、これらに準じる事情がある場合をいうところ、上記@及びAのみで同条の「子の利益のために特別の必要がある」ということはできない。
[ひとこと]
差戻審は、調査官調査や当事者審問を行い、関係者の生活状況等を詳細に認定して特別養子縁組の申立を認容し、その抗告審も差戻審の判断を維持した。

 
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