2 教育の場で
2-1 教師から学生・生徒に対する事例
2-1-2002.01.30 C大学事件控訴審(千葉)
 講師X男が、学会出張中のホテルで、大学院生A女に、発表のための指導をした後、抱きつき、押し倒すなどしたことにつき、330万円の支払いを命じた一審判決を変更して、110万円の支払いを命じた事例。
[裁判所] 東京高裁
[年月日] 2002(平成14)年1月30日判決
[出典] 判例集未登載
[上訴等]千葉地裁2001(平成13)年7月30日判決 2-1-2001.07.30
[事実の概要]
 講師X男(44)は、学会出張中のホテルで、大学院生A女(32)に、発表のための指導をした後、抱きつき、押し倒すなどした。
[原告の請求] 880万円。
[判決の概要]
 110万円。「A女が医師であり、32歳であったことなどからすると…深夜、男性の部屋に入室することを勧誘されてこれに応じて室内において歓談等するという状況の下においては…A女がX男との性的関係を結ぶことを承諾しているものと〔X男が〕誤解したこともあながち無理からぬことであると言わざるを得ない」。「成人の女性でかつ高度の教養を身に付け自己主張を十分することの出来るだけの自己を確立した女性としては、当夜の誘いに同意してX男のホテルの自室に入り、雑談などしてX男と2人だけで同室に相当時間滞在したことは熟慮を欠いた軽率な対応であると見られなくもないのであり、A女がこうした挙動に出ていることからしても、本件においては、指導教官と大学院生との支配関係の下に不本意ながら従ったなどといえるような事情があるとはいえない」。「結局のところ…X男はA女に対してその意思に反して本件行為に及び、これが不法行為を構成し、その結果、A女が精神的苦痛を受けたことは容易に認められるところであるが…本件行為の内容…X男が同大学から受けた処分及びその結果同大学を依願退職したこと…その他、本件に表れた諸事情を総合的に勘案考慮すれば、A女が本件行為により被った精神的苦痛を慰謝するには、100万円を持ってするのが相当である」。
[ひとこと]
 慰謝料が原審から3分の1に減額された。名前から推断すると裁判長は女性である。「成人の女性でかつ高度の教養を身に付け自己主張を十分することの出来るだけの自己を確立した女性」であろう裁判長を擁する法廷が、夜11時に指導教官にいわれて出張先のホテルの部屋に立ち入れば性的行為の承諾と見なされていきなり抱きつかれてもやむを得ない、と判断したことに驚く。裁判所は、自己主張を十分にできる女性は性的な関心を伺い合う会話も関係もない相手(上司)と雑談することによって性的行為への黙示の承諾を与えるものだ、と考えたのだろうか。そうでなければ、なぜX男の勝手な思い込みに共感するのだろうか。裁判官にジェンダーバイアスがあり、かつ、男性(加害者)の視点・都合で女性(被害者)の行動を評価しているとしか理解できない判決である。