2 教育の場で
2‐1 教育者から学生・生徒に対する事例
2-1-2005.06.27 O大学事件懲戒処分取消請求(東京)
国立大学教授X男が学生A女にセクシュアル・ハラスメント行為をしたとして大学がとった措置は、二重処分にあたり、裁量権の逸脱があったとして、大学からX男へ100万円の支払いが命じられた事例
[裁判所] 東京地裁
[年月日] 2005(平17)年6月27日判決
[出典] 労働判例910号72頁
[上訴等] 関連裁判:2-1-2005.04.07
[事実の概要] 被告大学は、教授X男に対して、大学における教員と学生との権力関係を利用したセクシュアル・ハラスメント行為を行ったとして、2000年6月に、被告大学の教育環境の保全のため、処分を決定するまでの間、すべての教育活動の停止及び大学運営への参加停止を決定した(1度目の停止措置)。被告大学は、2001年2月に、国家公務員法82条1項1号、3号に基づきX男を停職3か月とする懲戒処分をした(本件懲戒処分)。X男は、同年3月に、人事院に本件懲戒処分についての審査請求をした。被告大学は、懲戒処分の執行が終了した同年5月に、X男に対し、当分の間、すべての教育活動の停止及び被告大学運営への参加停止を命じる停止措置を決定した(2度目の停止措置=本件停止措置)。人事院は、同年11月に本件懲戒処分についての審理を終えたが、判定は出さなかった。X男は、2002年9月に、被告大学に対し、本件停止措置の解除を迫った。人事院は、2003年6月に、X男に対する本件懲戒処分を承認するとの判定を出した。被告大学は、同年11月に、本件停止措置を解除する決定をした。X男は、2004年4月1日以降、講義を担当し、教授会に出席することの制限をされなくなった。
[原告の請求] 停職3か月の懲戒処分の取消、慰謝料1,000万円
[判決の概要] 被告大学は、X男に100万円支払え。
 教授X男が学生A女にセクシュアル・ハラスメント行為をした事実は認められる。それに対する被告大学の本件懲戒処分(停職3ヶ月)には、手続的にも実体的にも違法な点は存在しない。
 懲戒処分執行後の停止措置(本件停止措置)については、「被告大学は…評議会規則に基づき、人事院の判定が行われた後、復職の体制が整うまでの合理的期間内において本件措置をとったと主張している」。「本件懲戒処分に至る経緯に照らしてみれば、本件懲戒処分の執行が終了した後であっても…学生全体の動揺や不安を除去し、学生の適正な教育環境を保全するため、X男が教育課程に復帰するまでの準備期間として、一定期間、X男の教育活動の停止及び教授会等大学運営への参加停止措置をとることは、大学の自治を担う評議会として裁量の範囲内にあったということはできる」。
 「しかしながら、本件停止措置は…本件懲戒処分の執行が終了した後約3年間に及んでいるところ…X男が教育課程に復帰するための準備期間としては…本件懲戒処分の執行が終了し、かつ、人事院の審理が終了し約1年を経過した後の新学期開始前日の2003年3月31日までで十分であると解するのが相当である」。X男のA女に対するセクシュアル・ハラスメントは1回のみであるから、「X男…が…本件停止措置の解除を求めた2002年9月…以降、6か月もあれば、被告大学においてX男に研修等を受けさせること等の措置をとることにより、X男が被告大学において学生に対しセクハラ行為を働く危険性は除去された蓋然性が高い」。「被告大学評議会が、本件停止措置を解除することなく、当該措置を漫然と放置したことは、X男の教授の権利ないし教授会等大学運営に参加する権利を不当に制約するものであり、本件セクハラ行為を理由に本件懲戒処分のほか本件停止措置まで課す〔ママ〕ものとしていわば二重処分をしたことにほかならず、2003年4月1日以降の本件停止措置は、裁量権の逸脱があったとして違法の評価を免れない」。「したがって、本件停止措置のうち、2003年4月1日から2004年3月31日…までの部分については、違法であ〔る〕」。
[ひとこと] 停止措置が2年を過ぎると、「本件セクハラ行為を理由に本件懲戒処分のほか本件停止措置まで課す〔ママ〕ものとしていわば二重処分をしたことにほかなら」ない、という理屈はわかりにくい。2度目の停止処分が二重処分にあたるというならわかるのだが、それは評議会の裁量の範囲内という。2年後に解除しなかったことが不作為による新たな処分を下したということだろうか。控訴。