4 その他

4-1 政治家による事例

4-1-2003.05.08 大阪府議事件控訴審

    非婚の母である原告の就職面接に際し、「そんなふしだらな人が自分の事務所に
    来てると言われるとなあ」等と述べからだに触るなどした被告の行為について、
    慰謝料及び弁護士費用として100万円の支払いが命じられた事例

[裁判所]大阪高裁

[年月日]2003(平15)年5月8日判決

[出典]判例集未登載、婚差会つうしん87号

[上訴等]5-4-2002.03.05

[事実の概要]自民党大阪府議X男(寺の住職であり幼稚園の園長でもある。64歳)は、
    保険外交員A女(38歳)に後援会事務所への就職を持ちかけた。府職員による面
    接の後、X男はその後の打ち合わせと称しホテルの部屋にA女を同伴させ、ルーム
    サービスで食事をしながら面接を行った際に、「未婚の母か。そんなふしだらな人
    が自分の事務所に来てると言われるとなあ」と言ったり、ソファに座っていたA女
    の隣に移り、握手した手をいきなり強く引き寄せ右手をA女の背中から腰に回した。
    1ヶ月後、A女から採否通知を求める葉書を出し、さらに半月後には、A女の離職
    を知りながら1ヶ月以上も採否通知をしなかったことと面接時の失礼な行為等につ
    いて謝罪を求める手紙をA女が出したところ、X男は、不採用通知とともに6か月
    分の所得等との名目で195万円の郵便為替をA女へ送付したが、A女は全部を返
    還。

[原告の請求]372万円

[判決の概要]慰謝料90万円および弁護士費用10万円の合計100万円を認容。「原告
    が既に…仕事をやめて離職しており、不採用の通知が上記の面接後1ヶ月以上経過
    してされたことを考慮しても、上記195万円は極めて多額で不自然というほかな
    く、被告の上記郵便為替証書の送付は、原告が抗議し謝罪を要求している被告の発
    言や行為が明るみに出ることを防ぐ意図でなされたものと考えざるを得ない」。
    「〔原告が面接後も被告事務所への就職を希望し続けていたことについては〕原告
    は、当時、4歳の子供を抱え、保険外交員の仕事をして母子家庭の生活を維持して
    いたが、経済的に相当不安定で、生活の困難な状況に置かれており、月額20万円
    の安定した収入を得られパソコンの勉強もできるという就職条件は極めて魅力的で
    あって、〔面接時の被告の〕行為があったとしても、自身や子の生活のために原告
    が上記採用を強く希望していたことは至極当然である」。
    「被告の発言は…未婚の母である原告を侮辱し婚外子に対する差別を容認する趣旨
    の発言であることは明らか」で、「母子家庭の生活のために安定した収入を求めて
    採用を希望する弱い立場にある原告と府議会議員として後援会事務所の事務員を採
    用する立場にある被告との間に社会的な力の差が存在する状況にあったことを考慮
    すれば、客観的には男性の女性に対する性的差別意識や優越意識に基づく発言と評
    価」でき、「原告と被告の社会的な力の差を利用し、外部から閉ざされたホテルの
    個室で性的意図のもとにその身体に接触した行為であることは明らか」である。

[ひとこと]一審は原告の供述を信用できないとして請求を棄却したが、高裁は逆に被告の
    供述は信用できないとして逆転判決を言い渡した。非婚の母や婚外子への差別発言
    であること、性的差別意識や優越意識に基づく発言であることを認めた点は高く評
    価できる。(谷田川、榊原共著)