5 敗訴の事例
5-1 職場で
5-1-2006.03.20 言葉によるいやがらせ独立行政法人L事件上告審(神奈川)
職員A女が希望異動先の上司であるX男から性的な言葉をかけられるセクシュアル・ハラスメントを受けたとする主張が、否定された事例
[裁判所] 東京高裁
[年月日] 2006(平18)年3月20日
[出典] 労働判例916号53頁
[下級審] 1審:川崎簡裁2004年4月21日労判916号62頁
     2審:横浜地裁2005年7月8日労判916号56頁
[事実の概要] A女は希望異動先の上司であるX男から誘われた夕食の場で、卑猥な発言を聞かされ、その後も職場あるいは他の職員を含めた昼食に出かけた際などに「不倫しよう」と繰り返し発言されたことから、働く女性のためになる仕事を望んで就職した労働問題の研究機関においてセクシュアル・ハラスメントを受けたことに絶望し、退職するに至ったと主張した。1審はA女の主張を認容し、請求通り50万円の支払いをX男に命じた。2審ではX男が1審の取り消しを求め、A女が請求額を500万円に拡張したところ、X男の卑猥な発言は、労組委員長時代の忙しさを示すエピソードにすぎないものであり、女性に対する配慮を欠く軽率で不適切なものではあっても、以後同旨発言が繰り返されてはいないので不法行為には該当しない(仮に該当しても消滅時効が完成している)、また、「不倫しよう」発言の事実は認められないとされ、1審判決が取り消された。A女上告。
[原告の請求] 500万円。
[判決の概要] 上告棄却。原審の判断は正当として是認することができる。
[ひとこと] 1審原告勝訴、2審では敗訴と事実認定が逆転し、上告審では2審が維持された。2審判決はA女が退職する際に他の同僚とともにX男にもハンカチを贈ったことなどを、被害者の行動としては理解し難いとしていた。これについてA女は上告理由書の中で、1-1-1997.11.20を引用しながら、X男を刺激して悪い噂を流されるなどの復讐を避けるためであったとしたが、上告審は「引用の判例は、事案が異なっており、本件に適切でない」とした。