判例 働く女性の問題
1 賃金、昇進・昇格

1−2000.7.31 住友電工事件
高卒事務職として採用された女性の昇進・昇格・昇給差別に対する損害賠償請求が否定された判例
[裁判所]大阪地裁
[年月日]2000(平成12)年7月31日判決
[出典] 労働判例792号48頁
[事実の概要]
1966年と69年に被告会社に高卒事務職として採用された女性2名が、同時期入社の同学歴の男性社員との間に昇進・昇格・昇給などで不利益な処遇を受けたとして、それらの男性社員との賃金格差相当額の損害賠償を求めた。また、社会意識などの変化などにより、男女別処遇が違法となった後も、男女格差を放置していたことは、会社の是正義務違反として、是正義務発生後の賃金格差相当分の損害賠償を請求した。
[判決の要旨]
労働者敗訴
男女別採用が公序良俗違反で違法なものとなった時点での会社の是正義務は、その時点で改めることであり、過去にさかのぼる必要はないとして請求を棄却した。
「……現在では全社採用において同じ高卒であるにもかかわらず、女子のみに採用の機会を与えないことは、合理的な理由のない男女差別に該当すると考えられるから、仮に、被告会社がその後も、右のような男女別の採用方法をとり続けたとしたら、現在に至るまでのいずれかの時点で、このような男女別の採用方法が公序良俗に反する違法なものと評価されることになるが、その際、被告会社に課せられる是正義務は、その時点で、右のような男女別採用を改め、それ以後、採用において女子にも均等な機会を与えるようにする義務に過ぎないというべきである。原告らの主張は結局のところ、被告会社が過去に行ってきた、当時としては違法といえなかった採用方法やそれに基づく処遇までも現在の違法性の判断基準に照らし、過去に遡って評価し直し違法評価を行うものというほかなく、法的安定性を害する。」
「……いずれの観点からしても、被告会社には原告らが主張する是正義務の発生を認めることはできず、原告ら主張の是正措置を採らなかったことが女子差別撤廃条約に反するものでもない。
したがって、その是正義務違反が債務不履行及び不法行為に該当するとして損害賠償を求める原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。」
[ひとこと]
「1960年代の働く女性が一般的に結婚・出産退職を容認する傾向にあったから企業が男女別雇用管理を行っても違法とはいえないという認識は、あまりにも現状追随的であり、……60年代後半の画期的な判例に比較して後退したという感を免れない。」(浅倉むつ子「司法におけるジェンダー・バイアス」法律時報73巻7号87頁)
大阪高裁で画期的な和解成立1−2003.12.24参照