判例 親子
2 親権者・監護者の変更

 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって親権者を他の一方に変更することができる(民819条6項、家事二表8項)。親権者の変更は義務の放棄を含むので、親権者の指定と異なり、必ず家庭裁判所の審判あるいは調停によらなければならない。監護者についても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、監護者を変更することができる(民766条3項)。
 変更が認められるためには、先になされた指定の後の「事情の変更」を要するが、事案ごとに裁判所が事情を総合的に考慮して判断する。子の意思・希望、現状の尊重などが、重要な基準になっている。

2−2019.1.18
未成年者の親権者変更を本案として、親権者の職務執行を停止し、職務代行者を選任する保全処分を認めた例
[水戸家裁土浦支部2019(平成31)年1月18日審判 家庭の法と裁判31号106頁]
[事実の概要]
申立人(母)と相手方(父)は、未成年者の親権者を相手方と定めて離婚。未成年者は父方祖母方にて相手方に養育されていたが、中学2年生の頃以来、申立人宅で申立人に養育されていた。
申立人は、親権者変更を求める調停を申し立て、同調停の係属中に、親権者の職務執行停止、職務代行者選任の保全処分を申し立てた。
[審判の概要]
「(1)本案申立認容の蓋然性」
「相手方は、相手方宅において父方祖母を怒鳴るなどし、これを嫌がった未成年者が投げやりな気持ちとなって不登校状態になったものの、未成年者の気持ちを理解することなく登校を求め、最終的には出て行けと述べている。また、未成年者の高校受験が間近に迫っているにもかかわらず、相手方は、自らが親権者であるとして自らが三者面談に出席することにこだわり、申立人の出席を拒否している。
一方、申立人は経済的に安定しており、未成年者の生活も安定しているのであって、その監護状況に問題はみられない。なお、申立人に夜勤はあるものの、勤務シフトの作成には申立人の意向も反映されており、これをもって監護状況に問題があるとはいえない。
加えて、現在15歳である未成年者は、相手方宅での相手方の言動等を理由に申立人宅での生活を希望しており、この希望は十分に尊重されるべきである。」
「(2)保全の必要性」
「未成年者の三者面談、出願及び高校受験は間近に迫っているが、相手方は申立人が三者面談に出席することを拒否しており、未成年者が相手方宅に戻ってこないと未成年者の県立高校受験の手続には協力しない意向を示している。未成年者の利益のためには、未成年者が希望する県立高校の受験を認める必要があるところ、現状のままでは、そのような受験をすることができないおそれがある。
以上によれば、本案審判が効力を生ずるまでの間、相手方の未成年者に対する親権者としての職務の執行を停止し、その職務代行者に申立人を選任するのが相当である。」
として、各申立てを認容した。

2−2018.5.29
未成年者の親権者を父から母に変更した原審判を取り消し、母による親権者変更の申立てを却下した例
[東京高裁2018(平成30)年5月29日決定 家庭の法と裁判20号41頁]
[事実の概要]
X(父)とY(母)は2011年に未成年者Zをもうけた。Yは、Zの出生直後から、専業主婦としてZの監護養育・家事を主に担当していた。
XとYは、2016年12月、Zの親権者をXと定めて協議離婚し、ZはXの実家での生活を開始した。なお、Yが、Zの親権者をXとする旨申し出たのは、Yに子宮頸がんの前段階の可能性の高い疾病があることが発覚したこと、闘病生活をしながらのパート勤務では経済的な不安があること、Yの両親や親族にはZの監護養育について相談できないと考えていたことが理由であった。
しかし、2017年1月、Yは、パート勤務から正社員となることができ、また、子宮頸がんの再検査により悪性でないことが判明した。さらに、Zの養育につきYの母方親戚の協力が得られる見込みも付いた。そこで、同年5月、親権者変更の調停を申し立てたが、不成立となった。
原審の千葉家庭裁判所市川出張所は、2018年1月31日、Zの親権者をXからYに変更する旨の審判をした。Xは抗告した。
[決定の概要]
1「親権者の変更の可否は、子の利益の観点から変更の必要があるといえるかどうかにより決せられることとなる。」
2@XとYは、双方が真意に基づいてZの親権者をXと定めて離婚する旨合意している。
A離婚後のXによる監護状況は、Zの福祉に適ったもので、YとZの面会交流についても積極的な対応を行っていて、Zも安定した生活を送っているといえる。
BZが父母のいずれか一方と生活したいとの意思は持っておらず、現状の生活状況を変更し、Yの下で生活したいとの意向を有しているとはいえない。
そうすると、離婚に至るまでYがZの主たる監護者であったことや、離婚後Yに一定の事情変更があったこと、YにおいてもZの福祉に適った監護養育環境を用意できることを考慮しても、「抗告人と相手方が合意に基づいて親権者を抗告人と定め、抗告人の下で安定した状況にある未成年者の親権者を変更することは相当ではなく、親権者を相手方に変更する必要性は認められないというべきである。」

2−2015.1.30
親権者を母とした協議離婚後に親権者を母から父に変更した事例
[福岡高等裁判所2015(平成27)年1月30日決定 判時2283号47頁]
[事実の概要]
抗告人(父)と相手方(母)は2008年に婚姻し、2009年に長男と2010年に長女をもうけた。母は2011年ころから夜間飲食店等でアルバイトをするようになり、朝帰りもたびたびあった。2013年にはアルバイト先の男性と肉体関係を持ち妊娠し、人工中絶手術を受けた。
同居中は、父が仕事を終えて夕方帰宅するのと入れ替わりに、母が食事の準備をして夜出かけて朝方帰宅する状況で、父が子らを入浴させ寝かしつける等していた。
父母は離婚について話し合い、父は親権者を母とすることを承諾したが、後日承諾を後悔し、離婚届の親権者に関する記載欄を空欄にしたまま署名押印し、母に交付した。母は親権者に関する記載欄に母の氏名を記載した。
その後、母がアルバイト先の男性と交際していることがわかり、父は離婚届不受理届を市役所に提出し、母に親権を譲れないと告げた。母は、包丁を自分の手首に突き付け、死ぬと述べる等した。
父母は、それぞれの両親や交際相手の男性等をまじえて話し合いをした。当初は母以外の全員が親権者を母とすることに反対したが、母は親権者となることを主張した。父方祖母が、母の住居や昼の仕事が決まり、生活が安定するまで、監護することを申し出たところ、母は承諾した。父母は同日親権者を母とする離婚届を提出した。
2013年中に母は子らと2回面会したが、2014年、父方祖父は母に対し電話で面会すると子らが情緒不安定になるから会わせることができないと伝えた。
2014年、父が本件親権者変更の調停を申し立てた。調停期日にて母が面会交流を求めた後、2回面会交流が実施された。同年、父は母を被告として不貞行為に関して損害賠償請求訴訟を提起した。
母は幼稚園の求めにかかわらず長女の誕生会に欠席した(後日の誕生会に父及び父方祖父が出席した)。また幼稚園が母にクラス懇談会に参加を求める電話をしたが、母は電話に出ず、結局父が出席した。長男長女の保育料を母が支払うことになったにもかかわらず、支払わなかったため、結局引き続き父が支払っている。
母は離婚後無職の期間貯蓄を取り崩すほか、児童手当や児童扶養手当を自分の生活費に充てることがあった。
原審は、親権者の指定以降の事情の変更が認められないという理由で、申立てを却下した。
[決定の概要]
「民法819条6項は、『子の利益のため必要があると認めるとき』に親権者の変更を求める旨規定しているから、親権者の変更の必要性は、親権者を指定した経緯、その後の事情変更の有無と共に当事者双方の監護能力、監護の安定性等を具体的に考慮して、最終的には子の利益のための必要性の有無という観点から決せられるべきものである。」
本件については、@現在の父及び父方祖父母による監護は安定しており、監護の実態と親権の所在を一致させる必要があること、A婚姻生活中の監護状況(夜間は母でなく父がしていたこと等)、B母が幼稚園の行事への参加に消極的で、保育料の支払いも行っていないこと、C母に監護補助者がおらず父との比較で監護養育に不安があること、D親権者が母とされた経緯は監護能力を認めたためではないこと、E養育に手がかかる子どもがいるにもかかわらず婚姻期間中に不貞行為をしており監護意思ないし監護適格を疑わせる事情といえることが認められ、子らが若年(5歳、4歳)で母性の存在が必要であること等を考慮しても、子らの利益のためには親権者を変更することが必要である。
事情の変更がない限り親権者の変更は認められるべきではないとの母の主張については、「親権者の変更の判断において、事情の変更が考慮要素とされるのは、そのような変更がないにもかかわらず親権者の変更を認めることは子の利益に反することがあり得るからであって、あくまで上記考慮要素の一つとして理解すべき」であるとして、斥けた。
以上より、原審判を取り消し、子らの親権者をいずれも父に変更すると決定した。
[ひとこと]
判例時報の解説にある通り、家庭裁判所においては子の利益が検討されて親権者が指定されるが、父母の協議による場合は、本件のように、子の利益を十分検討することなく指定される場合もあり得る。その場合にまで事情の変更が認められなければ親権者変更を認めないとすると、子の利益に反することが生じうる。その場合、本件のように、事情の変更の有無を重視するよりも、監護能力や監護の継続性等その他の考慮要素にもとづいて、いずれが親権者として相応しいか相対的に決すべきであろう。本決定は、その相対的比較の中で、母性優先や子の年齢よりも、監護能力・監護の適格性・監護の継続性等を優先させた。

2−2014.12.4
親権者(監護親)に調停条項に基づく面会交流債務の不履行がある場合において監護親に監護権を留保しつつ非監護親への親権者変更を認めた事例・面会が履行されなかった月の養育費の支払い義務を免除する旨の調停条項を間接強制決定類似の給付命令に変更した事例・面会交流債務の内容を一部緩和した事例
[福岡家裁2014(平成26)年12月4日審判 判時2260号92頁]


2−2014.4.14
戸籍事務管掌者が親権者変更の確定審判に基づく戸籍の届出を不受理とした処分を違法とした事例
[最高裁第一小法廷2014(平成26)年4月14日決定 民集68巻4号279頁、LEX/DB25446367]
[事実の概要]
母Bは2006年抗告人(Aの実父)と協議離婚した際、A(2002年生)の親権者となった。2008年BはCと再婚し、同年CはAと養子縁組をした。
CはAに対して、しつけと称して、身体を叩く、長時間正座させる等の体罰を繰り返し、2011年、児童相談所に虐待通告がされ、Aは一時保護された。
上記事実を知った抗告人は、Aの親権者をB及びCから抗告人に変更することを求める調停を福島家庭裁判所に申立て、審判に移行した後、同裁判所は、2012年、Aの親権者をB及びCから抗告人に変更する別件審判をした。同年中に即時抗告が棄却され、別件審判が確定した。
抗告人は、同年、戸籍事務管掌者である相手方に対し、親権者変更の届出をしたが、相手方は不受理とする処分をした。抗告人は、戸籍法121条に基づき、家庭裁判所に本件届出を命ずることの申立てをした。
原審(仙台高等裁判所)は、実親と養親の共同親権に服する場合、民法819条6項に基づく親権者の変更はできないので、親権者変更の審判は無効であり、同審判は、実体法規に反するものであることが形式上明らかであるから、相手方が本件届出を不受理とする処分をしたことに違法はないと判断し、申立てを認容した原々審判を取り消した。
[決定の概要]
民法819条6項に基づく親権者の変更はできないので、親権者変更の審判は無効との原審の判断は是認することができるとしたが、「審判による親権者の変更は、その届出によって親権者変更の効力が生ずるのではなく、審判の確定によって形成的に親権者変更の効力が生ずるのであるから、たとえ当該審判が誤った法令の解釈に基づくものであったとしても、当該審判が無効であるためにその判断内容に係る効力が生じない場合を除いては、確定審判の形成力によって、親権者変更の効力が生じ、当該審判によって親権者とされた者は子の親権者として親権を行使することができることになる。しかるに、このような親権者の変更が戸籍に反映されないとすると、子の親権に関し無用の紛争を招いて子の福祉に反することになるおそれがあるほか、身分関係を公証する戸籍の機能を害する結果となるものである。また、戸籍事務管掌者は、戸籍の届出について法令違反を審査する権限を有するが、法令上裁判所が判断すべきものとされている事項についての確定審判に基づく戸籍の届出の場合には、その審判に関する審査の範囲は、当該審判の無効をもたらす重大な法令違反の有無に限られるものと解される。
そうすると、戸籍事務管掌者は、親権者変更の確定審判に基づく戸籍の届出について、当該審判が無効であるためその判断内容に係る効力が生じない場合を除き、当該審判の法令違反を理由に上記届出を不受理とする処分をすることができないというべきである。」
本件については、親権者変更の審判が無効となるということはできず、相手方は本件届出を不受理とすることはできないにもかかわらず、不受理とする処分をしたもので、処分は違法であるとして、原決定を破棄し、申立てを認容した原々審判を結論において是認できるとした。
[ひとこと]
安達敏男弁護士・吉川樹士弁護士の解説(戸籍時報712号54頁)が、「個別の事案において、審判の無効をもたらす重大な法令違反の有無の存否を判断することは困難を伴う場合があるように思われます」と指摘する通り、戸籍事務管掌者が、事実関係に踏み込んで無効か否かを判断することは難しく、本決定は親権者変更の審判を救済するための限界の判断だったように思われる。

2−2014.2.12
母を親権者として定めて協議離婚した後、監護状況の変化等から、親権者を父に変更した事例
[東京家裁2014(平成26)年2月12日審判 判時2264号93頁]
[事実の概要]
父と母は2002年に婚姻し、2003年子をもうけた。2008年子の親権者を母と定めて協議離婚した。母は離婚後子とともに実家で生活したが、次第に同居する親族と不仲になり、さらに、2010年ないし2011年ころから、監護意欲が希薄となり、母の姉を中心とする母の親族が監護を担うようになった。
2012年、母が転居する際子を伴おうとしたが、子は拒否し、母の実家に留まった。その後、子は月1回の頻度で父と宿泊を伴う面会交流をしているが(母の実家は父宅と道路を挟んだ向かいに位置する)、母との交流はほぼ途絶えている。
父が、監護状況の変化等を理由に、親権者変更を申し立てた。
[審判の概要]
母の姉を中心とする母の親族のもとでの未成年者の監護状況に問題点はない。母の親族と父との関係は良好であるが、母の親族と母との関係は良好ではない。
調査報告書によれば、未成年者の父に対する印象・評価も良好ではない。調査官に対し、未成年者は、父と生活はしたくなく、現在の生活を続けたい、将来父宅に生活拠点を移転することになろうが、その場合にお母の実家と行き来したいと述べた。数か月後には11歳に達する小学校5年生という年齢や、応答ぶり等からすると、その意思を尊重するのが相当である。
以上より、離婚後未成年者の監護状況に変更が生じており、父の申立てに理由があるとして、親権者を母から父へ変更した。
[ひとこと]
判例時報の解説は、「本件で最も特徴的なのは、親権者変更を認めながら、監護の継続性も肯定した点といえよう。(略)裁判例は、親権者が第三者に子の監護を任せている場合でも、そのことのみで親権者を変更すべきとは判断していない。(略)しかしながら、本件は、監護の担い手(母の親族)と親権者(父)を当面別にすることによって、監護の現状維持と、親権者変更とを両立させた」、本審判の判断には、「子の意思、子や子の監護者と父、母との関係が勘案されているのではないか」と指摘している。

2−2014.1.10
最後に親権を行う者が遺言により未成年者後見人の指定を行っている場合でも、生存親は、最後に親権を行う者から自身への親権者変更を求めることができるとして、変更を認めた例
[大阪家裁2014(平26)年1月10日審判 判時2248号63頁]
[事実の概要]
父母は、3人の未成年子の親権者と母Fと定めて、2009年に離婚した。父は2013年に再婚した。Fは、未成年者らの未成年後見人としてFの母である抗告人(1954(昭和29)年生)を指定する旨の自筆証書による遺言を2013年にし、2013年に死亡した。父から親権者変更を申し立てた。
[審判の概要]
「離婚の際に一方の親を親権者と定めることを要するのは、離婚した両親にとって親権を共同して行使することは事実上困難であるためであるから、親権者と定められた一方の親が死亡して親権を行う者が欠けた場合に、他方の親が生存しており、未成年者の親権者となることを望み、それが未成年者の福祉に沿う場合においては、親権者変更の可能性を認めることが相当と解される。そして、親権者による未成年後見人の指定がされているときでも、未成年後見制度が元来親権の補完の意味合いを持つにすぎないことに照らすと、親権者変更の規定に基づいて親権者を生存親に変更することが妨げられるべき理由はない。」
「親が子に対する養育の意思を有しており、客観的な養育の環境も整っており、子が親との交流を円滑に行える状況にあり、親と暮らすことが子の意思にも沿うのであれば、最後に親権を行う者が遺言により未成年後見人の指定を行っているとしても、特段の事情がない限り、最後に親権を行う者から生存親への親権者変更を認めることが子の利益に沿うというべきである。」
「申立人は未成年者らを監護養育することについて強い意欲を持っていること、申立人の現在の妻も未成年者らの養育に協力する旨を述べていること、申立人には十分な資力があり、居住環境も未成年者らの養育のために特段の問題はないこと、申立人と未成年者らはFが生存していた当時から一定の交流を重ねており、未成年者らに申立人又は申立人の妻を拒否する傾向はないこと、当庁家庭裁判所調査官の下で行われた申立人と未成年者らとの交流場面観察においても、未成年者らは申立人との自然な交流を行ったこと、未成年者らは申立人と暮らすことについて肯定的な感情を有していることなどが認められ、特段の事情がない限り、申立人の親権者変更はこれを認めるべきものと解される。」
として、特別事情の存否を審理したうえで、これを否定し、父への親権者変更を認めた。
[ひとこと]
すでに定着している無制限回復説にたって判断した一例。

2−2011.7.20
事実婚が破綻し別居した後1年5か月単独監護した父からの親権者指定の申立てが却下された事例
[東京高決2011(平23)年7月20日 家月64巻11号50頁]
[事実の概要]
中国人の母(抗告人)は父(帰化により日本国籍を取得。相手方)との間で子を平成18年に出産した。父は胎児認知し、親権者は母である(民法819条4項)。父母と子は同居していたが、同居中、子の日常の監護養育は、主として母が行っていた。平成21年、父は母の右顔面を殴打し、母に右外傷性鼓膜穿孔の傷害を負わせた。平成22年にも父が口論の末母の顔面を殴打した。平成22年、母は恐怖心から別居を決意し、父の家庭内暴力について、弟とともに子を連れて警察に相談に行き、父も同警察署に呼び出されたところ、父が子を連れて自宅に戻り、母は弟宅に身を寄せ、以来別居した。母は数回にわたり、父に対し、子を引き渡すよう求めたが、父は応じなかった。
母は、別居後正社員として稼働し、弟宅と同じ建物内の別の居室を賃借して居住している。父は経営した会社を解散し、子を保育園から退園させ、自宅マンションから退去した。
平成22年、父は親権者を父と指定することを申立て、母は監護者の指定、子の引渡し及びこれらの保全処分を申立てたところ、仮に子を母に引き渡すことを命ずる保全処分が確定した。母は保全処分に基づき、子の引渡の強制執行に着手しようとしたが、父は、子の所在を明らかにしなかったため、執行には至らなかった。
本案の親権者指定事件において、原審(横浜家川崎支平成23年4月4日審判家月64巻11号64頁)は、親権者を父と定め、母の申立てを却下した。母が抗告。
[決定の概要]
(1)未成年者は、母である抗告人のみの親権に服する(民法819条4項)。未成年者の親権者を相手方と定めることを求める相手方の申立ては、親権者の変更を求めるものであるから、「子の福祉の観点から親権者として相手方が抗告人よりふさわしく、子の利益のために相手方の親権者として定める必要があると認められる場合に認容されるべきである。」
(2)約3年4か月間の母による主たる監護が未成年者の福祉を損なう不適切なものだったとは認められない。
(3)別居が父による暴力が原因であったこと、別居後数回母が父に子の引渡しを求めた後本件申立てに至っていることから、抗告人は「(別居の際に)直ちに未成年者の養育を自らの意思で放棄したものとは認められ」ない。
 相手方による監護は、「抗告人が相手方の暴力による恐怖心から別居を余儀なくされたことの結果として開始されたもの」であり、唯一の親権者である抗告人の意思に反してそれまでの監護を変更したものである上、引渡しを命ずる審判前の保全処分後も相手方が監護を継続していることに照らすと、「相手方の監護により生じた状態を既成事実として必要以上に重視することは相当ではない」。
(4)抗告人の意欲、収入、居住環境、監護補助者の存在などからしても、適切な監護教育環境を提供することができるものと認められる。
(5)保育園退園、マンション転居後の相手方の監護状況の適切さを裏付ける資料はなく、相手方による監護が抗告人の監護に優っていると認めるに足りる資料はない。 以上より、相手方の親権者指定の申立ては理由がないとして、却下した上、抗告人に引渡しを命じ、原審判を変更した。
[ひとこと]
原審判は、内縁関係にあったから「実質的には共同親権のもとに監護養育されていた」と解して、親権者指定と同様に判断するとした上で、母が父のDVを原因として別居したものであること、別居の際に父が警察から子を連れて帰るに際し母の明示の承諾はないこと、その後母が数回引渡しを求めたこと等、本決定と同様に認定しながらも養育の援助を申し出ている母の弟夫婦が共働きであり援助が受けられるか問題があること、子が父と親和的であること、4歳である子は母による養育を必ずしも必要としない年齢に達していること等から、父を親権者と指定した。さらに、原審判は、子の引渡しの審判前の保全処分の審判に父が応じなかったから父による監護の期間が伸び監護実績を作ったにすぎないことを全く考慮していなかった。原審判が軽視した事情を考慮した本決定の判断は評価できる。また、事実婚解消の際の親権者指定(原審の立場)あるいは親権者変更(高裁決定の立場)の決定基準の問題としても参考になる。

2‐2010.7.16
離婚後単独親権者が死亡した後、未成年後見人が選任された子の親権者を,民法819条6項を準用して,実親に変更した事例
[裁判所]佐賀家裁唐津支部
[年月日]2010(平成22)年7月16日審判
[出典]家月63巻6号103頁
[事実の概要]
母と亡父は,二子(2001年生と2003年生)を設けたが,亡父を親権者として離婚した。母は,亡父から里心がつくから1年か1年半は子らに会わないでいてくれと言われていたことから,離婚後,子らと交流を持つことを控えた。亡父が死亡した後,亡父の父母である祖父母が子らの保護者の役割を果たし,祖母が子らの後見人に選任された。
しかし,祖母は健康に不安があることから,母に,子らの引き取りを求め,話し合いをはじめた。母は再婚相手と話し合いをし,子らと再会した。本件は,母が亡父から母への親権者変更を申し立てた事案である。
[審判の概要]
母も再婚相手も,健康面に問題がなく,引き取りに前向きである。子らも母と再婚相手を慕い,母との生活を楽しみにしている。後見人である祖母も,母が親権者となり,子らを養育するのが良いと考えている。このような母の家族関係,生活状況及び子らとの親和性にかんがみて,母は監護養育の適任者であるということができる。よって,子らの親権者を亡父から母に変更する。
[ひとこと]
単独親権者の死亡後、後見人が就職しているか否かにかかわりなく、生存配偶者が親権者として適切であれば、民法816条6項を準用して親権者を変更しうる(無制限回復説)とするのが通説・裁判例である。本件は関係者間に変更の合意があり、円満に解決できた事案である。

2−2010.6.10
親権者である父が未成年者の養育監護を父の両親に委託したことは、未成年者の福祉に反しないとして、母からの親権者変更の申立てを却下した事例
[裁判所]さいたま家裁
[年月日]2010(平成22)年6月10日審判
[出典]家月62巻12号100頁
[事実の概要]
母と父は、未成年者である子(「私立中を目指して塾に通い始めた」とあり、小学校高学年と思われる。)の親権者を父と定めて調停離婚した。母は離婚後も未成年者と連絡を取り合い、父が夜勤で留守のときには未成年者の面倒を見るなどしていた。しかし、父は、児童相談所から夜勤の際の監護について指導・通告されたことから、未成年者を遠方の父の実家に預けた。母は、未成年者と電話で話すことも拒否され、面会することもできなくなったことから、未成年者の親権者を父から母に変更するとの審判を求めた。
[判決の概要]
本件は、新たに親権者を定める場合とは異なるから、現時点の親権者による養育監護状況が劣悪であるなど、未成年者の福祉に反する状態が認められる場合に、親権者を変更すべき事情があるというべきである。
確かに、父は日常的に未成年者と生活をともにすることはできないが、日常的にこまめに電話や手紙で未成年者とやりとりをして意思疎通を図っているほか、父が帰省する際には父子での時間を楽しんでいる。未成年者は、新しい環境に馴染み、転校先で学習面でも努力しており、生活上で心配な点は窺われない。
未成年者は、家庭裁判所調査官に対し、母に対する拒否的感情を露わにし、母を全面的に拒絶する発言をした。しかしながら、祖父母方に行くまでの間に、未成年者が母を完全に拒絶していたとは到底思われない言動があったことが認められる。この未成年者の矛盾した感情を分析すると、未成年者は、覚悟を決めて祖父母方に行き、生活を安定したものとするべく種々の面で努力をしている最中であると解される。また、父母の諍いを間近で見聞きしてきた未成年者は、母が未成年者とかかわりを持つことで、諍いが再燃することをおそれ、母を遠ざけようとする意志が働いているものと解される。いずれにしても、現時点で未成年者の生活環境を大きく変更することは、未成年者自身が欲しないものであると解される。
以上のとおり、未成年者の現在の養育監護に大きな問題は見当たらず、未成年者の福祉に反するというべき事情はない。
したがって、親権者を父から母に変更するとの申立てを却下する。本件は、新たに親権者を定める場合とは異なるから、現時点の親権者による養育監護状況が劣悪であるなど、未成年者の福祉に反する状態が認められる場合に、親権者を変更すべき事情があるというべきである。
確かに、父は日常的に未成年者と生活をともにすることはできないが、日常的にこまめに電話や手紙で未成年者とやりとりをして意思疎通を図っているほか、父が帰省する際には父子での時間を楽しんでいる。未成年者は、新しい環境に馴染み、転校先で学習面でも努力しており、生活上で心配な点は窺われない。
[ひとこと]
親権者が遠方の両親に未成年者の養育監護を託したケースについて、「未成年者の福祉」の点から親権者変更を認めなかった事案である。

2−2010.2.23
親権者変更審判の係属中に、親権者である母が未成年者らを外国に連れ去ったことを理由に、母から父への親権者変更を認めた事例
[裁判所]福岡高裁那覇支部
[年月日]2010(平成22)年2月23日決定
[出典]家月63巻1号134頁
[事実の概要]
X(父)とY(母)は、未成年者らの親権者をYと定めて協議離婚した。もっとも、YはXに対して、公的扶助を目的とする離婚であると説明しており、離婚後も共同生活を続けた。その後、Yが家出をしたため、Xは約9カ月にわたり未成年者らの監護を全般的に行った後、親権者変更の申し立てをした。裁判所の調査の結果、Yが米国に在住していることが判明し、Yの帰国時期に合わせて調査官による面接調査が実施される予定であったが、Yの母は、公園に連れていくと述べてXから未成年者らを預かると、帰国していたYに引き渡した。Yはそのまま未成年者らを連れて米国に戻った。
原審(那覇家裁沖縄支部)は、未成年者らの親権者をXに変更するとの審判をした。
[決定の概要]
Yは、Xと同居して安定した生活を送っていた未成年者らを、Xの意向に反し、原審裁判所における審判手続きを無視する形で、未成年者らにとって未知の国である米国に連れ出した。Yの親権者としての適格性には重大な疑義がある。
したがって、子の福祉の観点からは、未成年者らの親権者をYからXに変更するのが相当である。
[ひとこと]
親権者が、奪取に近い形で未成年者の監護を開始した事実を重視し、親権者としての適格性に疑義があるとして、親権者の変更を認容した事例である。違法な奪取の結果の監護の実績や継続を裁判所は承認しないという近時の傾向の1つである。

2−2009.5.13
1中華人民共和国婚姻法36条3項に定める子の撫養に関する人民法院の判決を、日本の家庭裁判所の審判で代行することができるとされた事例
2離婚の際にいったん撫養者が定められた場合であっても、その後父母間に子の撫養について争いが生じ、協議が成立しない時は、同項を適用して撫養者を変更する旨の裁判をする事ができるとされた事例
[裁判所]前橋家裁
[年月日]2009(平成21)年5月13日審判
[出典]家月62巻1号111頁
[事実の概要]
申立人Xと相手方Yは、共に中国国籍を有し、平成11年に婚姻し、同年から日本で生活をしていた。平成14年、XY間に未成年者Zが出生した。平成19年、XとYは、Yを親権者に指定して協議離婚をしたが、その後もXは、YとZの住むアパートに行ってはZの食事の準備をしたり、掃除をしたり、Zの宿題を見てZの洗濯物を持ち帰るなどしていた。また、Yが泊りがけの仕事に出るときは、Xの母親がZの面倒をみるなどしていた。他方、Zは、押入れを自室として使用していたほか、Yは入浴しないので臭いという発言をしていた。
平成20年、Xが、Zの親権者をXに変更することを求める申立てをしたのが本件である。
[判決の概要]
1親権者の指定又は変更や子の監護に関する処分に係る事件について、子の住所地国の裁判所は国際裁判管轄を有するから、日本の国際裁判管轄が認められる。
2親権者の指定または変更や子の監護に関する処分については、法の適用に関する通則法32条にいう親子間の法律関係に当たるから、Z及びXY双方の本国法である中国法が準拠法となる。
3中国法においては、日本法における「親権」に相当する統一的、集合的な概念はなく、個々の権利義務の内容ごとに個別の規定が設けられているにすぎない。そして、中国法上、離婚後も父母は子に対し依然として撫養及び教育の権利及び義務を有するものの、哺乳期後の子女につき、双方の間に撫養問題で争いが発生し協議を達成することができないときは、人民法院が、子女の権益と父母双方の具体情況に根拠して撫養する者を判決するとされている(中国婚姻法36条2項、3項)。中国婚姻法36条3項にいう人民法院の判決については、日本の家庭裁判所が家事審判法9条1項乙類4号の審判により代行することができる。
 Yの監護状況が良好なものとは言い難いこと、Xが別居後もZの面倒を見ていたこと、経済的にもXの方が余裕があること、ZはむしろXに親愛の情を抱いていることなどを考慮すると、Zの撫養者をYからXに変更するとの申立てには理由がある。
4中国婚姻法36条3項は、離婚時のみならず、離婚後において父母の間に撫養問題の争いが発生した場合にも適用される。
[ひとこと]
中国婚姻法36条3項の子の撫養に関する人民法院の判決につき、日本の家庭裁判所の審判で代行することができるとした上で、親権者変更と同様の考慮要素で子の撫養者に関する判断をしている。

2−2009.1.6
親権者変更の申立てにつき,母の金銭管理能力に不安があるとして,監護者の変更のみを認め,親権・監護権の分属を認めた事例
[裁判所]横浜家裁
[年月日]2009(平成21)年1月6日決定
[出典]家月62巻1号105頁
[事実の概要]
父母は母の消費者金融からの借入等を巡っていさかいが絶えなくなり,離婚話が出て協議離婚届を作成した。なお,母が署名押印した際に父が子らの親権者である旨の記載があったかどうかは争いがある。母が子らを連れて一時実家に戻った際,父が鍵を変え,そのまま別居となった。父は,父が子らの親権者である旨の記載をした協議離婚届を提出した。
[判決の概要]
母(申立人)の母親としての監護能力に問題はなく,子ら(いずれも女児,14歳,11歳,3歳)が母による監護を望んでいることなどの事情に照らすと,母に監護を任せることが子の福祉に適うものであるが,母の金銭管理能力には大きな不安があることにかんがみれば,親権者を父(相手方)としたまま,監護者のみを母に変更するのが相当である。

2−2008.1.24
親権者に対し、未成年者の財産の管理が適切でないとして、管理権の喪失を宣告した事例
[裁判所]高松家裁
[年月日]2008(平成20)年1月24日審判
[出典]家月62巻8号89頁
[事実の概要]
A(申立人)とB(事件本人)は、C(未成年者)の親権者を父Bと定めて協議離婚した。その後、Bの父Dが死亡し、Dの不動産についてBとCが相続した。
Bは離婚当時から相当額の負債を抱えており、債務返済のため、C所有の不動産を売却したいとCに持ちかけたところ、Cは「うち200から250万円は大学の授業料としてもらいたい」と伝えて売却を了承した。しかし、Bは売却代金をCの授業料として使用せず、さらに、C所有の他の不動産についても同人に無断で売却しようとした。
[判決の概要]
Bは、管理が失当であったことによって未成年者の財産を危うくしたもの(民法835条)と認められる。よって、BのCに対する管理権を喪失させる。
[ひとこと]
管理権喪失の審判例の公表は非常に珍しい。単独親権者について管理権喪失が宣告されたときは、財産に関する権限だけの未成年後見人が選任される。

2−2003.3.25
母と親権者として離婚した後、子の監護場所が数度変更し、父からの親権者変更申立がなされ、親権者を父に変更し、監護者を母と指定した例
[裁判所]東京家裁
[年月日]2003(平成15)年3月25日審判
[出典]未公表
[事実の概要]協議離婚時に母を親権者とした。離婚時には女児は4歳。父との面接は続けられていた。子の遠足の支度を忘れるなど母の監護にも問題があり、7歳の頃に自分で父方に行った。父が親権者変更を申し立て、母も賛成の意向をしめしていたが、母は意向を変更し母方に連れてかえった。
[判決の概要]「事件本人の今後の成長過程を考慮し、より安定した監護を期待できるのは申立人(父)であり、親権者を変更する理由があるというべきである。しかしながら、事件本人が申立人及び相手方(母)を慕う気持ちに優劣はなく、現在、事件本人は、自分のために相手方が頑張ってくれていると感じ、当面相手方のもとで生活することを希望している。相手方も、従前より事件本人中心の生活を心がけていることが認められ、申立人との面接交渉についても、本件期日において、事件本人の監護を継続することになるのであれば、面接交渉が円滑に実施されるよう努力する旨述べるなど、より子の福祉に適う配慮をしていることがうかがわれる。事件本人の上記心情を尊重し、短期間に監護環境が変わることによる事件本人の負担を考慮すると、現段階で、監護者をも申立人に変更することは相当でなく、相手方が監護している現状を維持したうえで、申立人と事件本人の面接交渉を継続させることによって、より事件本人の心情の安定をはかることが相当である。」として、親権者は父に変更し、母を監護者として指定するとした。
[ひとこと]子が何度も往復せざるをえなかったのは子にとって負担な面があるが、双方面接交渉を自由に認めあってきた経過があり(それなりに信頼関係がある)、このような親権・監護権分属の決定がなしえたようにも思われる。父が再婚したことで、母が子を引き取りたくなったという事情もあったようである。

2−2003.2.27
母の不貞から婚姻が破綻し、子2人の親権者を父として協議離婚したが、母がその後も子ら(6歳4か月、3歳5か月)の監護を継続していたため、父から子の引渡しを求めたところ、母から親権者変更を申立てたという事案で、親権者変更は認めなかったが、母の親権者変更申立は監護者指定の申立を含んでいると解釈し,子の生活および情緒の安定、母親のきめ細かな養育監護の継続の必要性、父との面接交渉が期待できることなどから、母を監護者に指定し、父からの引渡し請求を否定した例
[裁判所]仙台高裁
[年月日]2003(平成15)年2月27日決定
[出典]家月55巻10号78頁

2−2000.4.19
当初は合意に反し父が5歳の子を奪取し,離婚判決は母を親権者として指定したが,約10歳になった子は母に拒絶感を有している事案で、その後の安定した生活期間の長さ,子の年齢によっては,現状尊重や子の意思が優先するとして父への親権者変更を認めた例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2000(平成12)年4月19日決定
[出典]家月53巻1号82頁

2−2000.4.19
約10歳の子の意思を尊重し,父への親権者変更を認めた例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2000(平成12)年4月19日決定
[出典]家月53巻1号82頁
[事実の概要]申立人父は高校教師。昭和62年2月に第1子(男),平成元年10月に第2子(男)が生まれた。離婚の紛争中に,平成4年,父は無断で幼稚園にいた第2子を連れ出し父の養母に預けた。,離婚判決は親権者を母と指定し母への引渡しが命じ,平成7年10月確定した。高裁の離婚判決時には子は5歳であった。その後,父からは親権者変更の申立,母からは引渡しにつつき間接強制の申立があり,1日2万円の割合の金員の支払いが父に対して命じられた。母は引き取りに行ったが実行できなかった。母は引渡しの強制執行(直接強制)を申立て執行官が出向いたが,事件本人は「母親とは思わない」「会うこともいや」と言い,引渡し不能となった。平成10年5月,父は事件本人の不安や緊張感が続く上に母へのマイナス感情がさらに増加して親子関係の改善が根本的に難しくなると判断しいったん親権者変更を取下げた。申立人は同年7月再婚した。父は平成10年12月,再び親権者変更を申立てた。事件本人は10歳,小学校4年であり,父の養母宅で暮らし,週末や長期休暇は父宅で第1子や父の再婚相手と4人ですごしている。本人は母と会うこと,いっしょに生活することをはっきり拒否し親権者変更を望んでいる。原審は,事情は大幅に変更されている,父の無断連れ去りや間接強制に従わなかったことは非難される行動であるとしながらも,事件本人の福祉を考慮し親権者変更を認めた。
[判決の概要]事件本人が現在の生活環境から引き離され,抗告人のもとに引き取られるのを強く嫌悪している状況下において,事件本人の福祉を唯一・最大限に考慮すると,親権者を父に変更するのが相当である。
[ひとこと] 親権紛争は8年という長期に及んでいる。当初の奪取に問題があっても,長期化による生活の安定、子の明確な意見表明により、子の意思,現状が尊重された1例。原審が,「事件本人に実母に対する負のイメージを抱かせ続けることは同人らの性格形成上弊害が大きく,監護を担う申立人はその解消に向けて努力」するようにと併記している。

2−1999.8.20
父母双方から親権者変更が申立てられた例
[裁判所]京都家裁
[年月日]1999(平成11)年8月20日審判
[出典]家月52巻1号98頁
[事案の概要]離婚の前後を通じ、子の連れ去り、連れ戻しが繰り返されている例。離婚判決では、子Aの親権者が父、子B及びCの親権者が母とされた。母からAの親権者を母に変更し引き渡すことを求める申立、父からはBの親権者を父に変更する旨の申立がなされたが、緊張感を伴う母子関係に比し父とA,Bの関係は良好であること及び子らの意向を考慮し、母の申立を却下し、父の申立を認容した。

2−1999.6.8
親権者母死亡後、父からの親権者変更が却下された例(祖母が後見人に)
[裁判所]福岡家裁小倉支部
[年月日]1999(平成11)年6月8日審判
[出典]家月51巻12号30頁
[事案の概要]離婚により未成年者の親権者となった母が死亡した後、未成年者の父から親権者変更の申立てがされた事案において、亡親権者母の母を後見人に選任することが相当であると認め、申立てを却下した事例

2−1995.11.17
3歳女児につき親権者を父として離婚したが,その3週間後に母より真意でなかったとして親権者変更を申立てた事案で,母性優先の原理を尊重して変更を認めた原審を取り消し,双方の適格性に大きな差異はなく、女児のそれなりに安定した生活を短期間で覆し新たな監護環境に移すことはその心身に好ましくない影響を及ぼすとして、現状を尊重し、原審判を取り消し、母への変更を認めなかった例
[裁判所]仙台高裁
[年月日]1995(平成7)年11月17日決定
[出典]家月48巻9号48頁

2−1994.4.26
共同親権の一方による子の連れ去りに対する人身保護請求において、「拘束の違法性が顕著」(人身保護規則4条)とは、拘束者に監護されることが請求者の監護に比して子の幸福に反することが明白であることをいうが、それは拘束者と請求者の監護の相対的な優劣によるのではなく、親権行使が極めて不適切な例外的な場合を指すとして、原審を破棄差戻した事例。
[最高裁1994(平成6)年4月26日第三小法廷判決 民集48巻3号992頁、家月47巻3号51頁]
[事実の概要]
母(請求者)は、子を二人抱え、くも膜下出血による後遺症を抱えながら生活をしていたが、父(拘束者)が家事等に協力してくれないことに不満を持つようになり、1995年3月に子2人(1984年生と1987年生)を連れて父のもとを去った。その後、母の両親宅に身を寄せ、子らも近くの小学校に通い、平穏な生活を送っていた。また、母の両親宅に移ってから、子らの気管支ぜんそくも病状が改善されていた。
1993年11月、父は、子らが通学する小学校付近で登校してきた同人らを車に乗せ、自宅に連れて帰った。それ以降、子らは近くに住む父の実母らに面倒を見てもらいながら父の自宅で生活し、小学校にも通い始め、普通の生活を送り始めた。
これに対し、母が父との生活は子らの幸福を害するとして人身保護請求を申し立てた。 原審(大阪地判1993(平成5)年12月21日)は、@母の両親宅で送っていた安定していた生活が父宅に移ることですべて失われることA子らの気管支ぜんそくが母の両親宅では改善したが、父宅の地域では環境的に悪化するおそれがあることB子らは幼女であることから母親の監護を欠くことは適当でないことなどを挙げ、父の監護下は母の監護下に比し幸福に反することが明白であり、父の監護拘束は人身保護規則4条の権限なしにされた違法なものに当たるとし、母からの人身保護請求を認容した。
[判決の概要]
人身保護規則4条にいう「監護・拘束が権限なしにされていることが顕著」とは、「拘束者が幼児を監護することが、請求者よる監護に比して子の幸福に反することが明白であることを要する」(最三小1993(平成5)年10月19日判決 家月45巻10号33頁)。 共同親権者のどちらか一方による監護は、「親権に基づくものとして、特段の事情がない限り適法であることを考えると、右の要件を満たす場合としては、拘束者に対し、家事審判規則52条の2又は53条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分等に従わない場合」や、「幼児にとって、請求者の監護の下では安定した生活を送ることができるのに、拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり、満足な義務教育を受けることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができないような例外的な場合がこれに当たる」と判示し、原判決の挙げる@からBの事実は、被拘束者にとって相対的な影響を持つ事情であり、単に相対的優劣を判断したに過ぎないとして、原判決を破棄差戻した。
[ひとこと]
共同親権者間でのいわゆる「子の奪い合い」の事例である。子の拘束・監護の違法性が顕著な場合を例示列挙し、1993(平成5)年の判例とともに、判例のターニングポイントとなった例。

2−1992.4.28
17歳の高校生が,自らの意思で親権者である父方から母方へ転居したが,転入手続に必要な書類に父が署名しないため転学できないでいたところ,母から親権者変更の申立て及び親権者父の職務の執行を停止し一時代行者として母を選任する旨の審判前の保全処分の申立てがなされ,認められた例
[裁判所]札幌家裁
[年月日]1992(平成4)年4月28日審判
[出典]家月45巻1号132頁

2−1989.7.25
親権者父が子らに暴力をふるったり,父の内縁の妻が子らに対し「出て行け」と怒鳴ったりし,子らは自己の意思で父方を去り母方で暮らすようになったところ,父が母に対し子の引渡しを求めたという事案において,原審は引渡しの申立てを却下したが,抗告審では,子の引渡しを認容すべきかどうかは親権者をいずれとするのかの結論に合致するよう処置すべきものであり,家庭裁判所の後見的機能からすると,親権者変更の申立てを母に促し併せて審理すべきとして差し戻した例
[裁判所]高松高裁
[年月日]1989(平成元)年7月25日決定
[出典]家月41巻12号117号

2−1985.5.27
12歳と11歳の子を非親権者父が監護しており,子は母の元に戻る意思が全くなく父母の監護能力・環境に格段の差はないという事案で,父への親権者変更の申立てを却下した原審判を取り消し、差し戻した例
[裁判所]東京高裁
[年月日]1985(昭和60)年5月27日決定
[出典]家月37巻10号75頁

2−1983.6.7
離婚後10年近く非親権者母が養育してきたところ,母が,父から母への親権者変更申立事件を本案として,父について親権者の職務執行停止,職務代行者選任を申立てた事案において,父が監護の現状を無視して子の引取りを強行しようとしていること,父の養育能力の不存在,母方での安定した生活及び子の意思などを理由に,父の親権者としての職務執行を停止し職務代行者として母を選任した例
[裁判所]札幌家裁
[年月日]1983(昭和58)年6月7日審判
[出典]家月36巻7号98頁

2−1983.4.22
非親権者母が親権者父の親権行使に危惧の念をもち親権者変更の審判前の保全処分を申立てた事案において,父が親権者変更を回避する目的で子と後妻との養子縁組をするおそれがあるとして,親権者父の職務の執行を停止するとともに代行者を選任する審判前の保全処分を命じた例
[裁判所]金沢家裁
[年月日]1983(昭和58)年4月22日審判
[出典]家月36巻8号118頁
 
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