判例 親子
養育費

2020.3.4
実父の養育費支払義務は未成年者の養子縁組によって無くなるが、その始期については、養子縁組時ではなく、実父からの養育費免除の調停申立時とした例
[東京高裁2020(令2)年3月4日決定 判例時報2480号3頁]
[事案の概要]
未成年者らの実父が、未成年者らの母に対し、未成年者らが母の再婚相手と養子縁組したことから、協議離婚時に合意された養育費の支払義務免除の調停を申し立てたが、不成立となって審判に移行した。原審は、実父の支払義務の免除を認め、その始期については養子縁組の日以降としたため、母及び養父が抗告した。
[決定の概要]
決定は、相手方の養育費支払義務については、原審と同じく免除することを相当としたが、その始期については、「既に支払われて費消された過去の養育費につきその法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは、抗告人らに不測の損害を被らせるものであるといわざるを得ない。」、「相手方は、抗告人(母)の再婚や未成年者らの養子縁組の可能性を認識しながら、養子縁組につき調査、確認をし、より早期に養育費支払義務の免除を求める調停や審判の申立てを行うことなく、3年以上にもわたって720万円にも上る養育費を支払い続けたわけであるから、本件においては、むしろ相手方は、養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、実際に本件調停を申し立てるまでは、未成年者らの福祉の充実の観点から合意した養育費を支払い続けたものと評価することも可能といえる。」などと述べ、原審を変更した。

2019.8.19
公正証書で養育費を合計月額15万円と定めたが、実際の養育費は住宅ローン月額10万円を控除した5万円であり、住宅ローンに関する合意と切り離して養育費のみを減額することはできないとした事例
[東京高裁2019(令和元)年8月19 日決定 判例時報2443号16頁、家庭の法と裁判29号105頁]
[事案の概要]
X(原審申立人)がY(原審相手方)に対し、離婚給付等契約公正証書2条1項により定めた養育費の額(1人月額5万円、合計15万円)を1人月額3万円に変更することを申し立てた。原審は、Xの収入が大きく減収したこと、Xが再婚相手の子と養子縁組をし、再婚相手との間に子をもうけたことから、養育費の額を1人月額2万6000円とすると審判した。これに対し、Yが抗告を申し立てた。
[判決の概要]
本件公正証書は、単に養育費の額を定めるのにとどまらず、離婚に伴う様々な事項に関する取決めをした複雑なものである。確かに、その2条1項において、未成年者らの養育費を月額5万円ずつ(3人分合計で月額15万円)と定めているものの、同条2項において本件差引条項が定められ、Xが住宅ローン月額10万円を支払っている場合には、その支払額を養育費から差し引くものとされているのであり、これらの条項は不可分一体のものとなっていると解するのが相当である。また、本件公正証書が作成された当時から現在に至るまで、上記住宅ローン月額10万円は、実際に支払われるものと考えられ、現に支払われてきているというべきであるから、本件公正証書による合意の真の意味は、未成年者らの養育監護に使用される実際の養育費としては、上記住宅ローン月額10万円相当額を除いた、月額5万円をYに支払うことを約するものと解するのが相当である。
そうすると、不可分一体というべき上記各条項につき、住宅ローンの支払に関係する条項については、本来、家事審判事項とはいえず、本件において変更することは許されないというべきであるから、養育費の月額のみを一方的に変更することは不当な結果を導くことになり、相当でない。また、上記のとおり、本件公正証書において合意された実際の養育費は、未成年者3名で合計月額5万円であったと解した場合でも、Xの主張する事情の変更を前提にして前記標準的な養育費の算定方式に基づき試算した養育費の額は、未成年者3名で合計月額7万8000円となるのであるから、養育費の減額が認められる余地はない。
これら本件特有の事情を総合考慮すると、本件においては、本件公正証書において定められた養育費の額を変更し、減額するに足りる事情を認めることはできないというべきである。
なお、本件住居につきY及び未成年者らが無償で居住すること及びその最終的な取得者がYとなることが本件公正証書において定められている点に鑑みると、本件における問題の解決のためには、関係当事者において、住宅ローンの支払や本件差引条項等を含めた本件公正証書による合意の見直しを協議することが有益であることは当然であるから、その旨念のため注意喚起する(Xにおいて住宅ローンの支払が困難な事態に陥ると、Yらにも不都合が生じることが懸念される。)。

2018.6.28
子が親権者母の再婚相手と養子縁組した場合に、縁組の日に遡って実父の養育費の支払義務は消滅しているとした例
[最高裁第一小法廷2018(平成30)年6月28日決定 判例時報2430号9頁]
[事案及び決定の概要]
父母は2002年に母を子の親権者として離婚した。母は2004年に再婚し、子は再婚相手と養子縁組をした。母は2007年から2017年までの養育費を請求債権として父の不動産に強制競売を申し立て競売開始決定がされた。2017年、父は事情変更ありとして縁組日まで遡って養育費を0円とする養育費減額請求を家裁に申し立てた。原々審および原審はいずれも、実母と養父が第一次的には子の生活保持義務を負うとし、最高裁はこれを維持し、母の許可抗告の申立てを棄却した。

2018.3.15
未成年の子(その親権者代理人)が申し立てた扶養料調停による債務名義と、親権者母が申し立てた養育費審判による債務名義があり、その双方につき、増額請求の申立てがあった場合に、子が20歳に達したのを契機に、扶養料調停の金額を増額変更して債務名義を一本化した例
[大阪高裁2018(平成30)年3月15日決定 家庭の法と裁判18号52頁]
[事案の概要]
2000年、父母は母を子(1997年生まれ)の親権者と決めて離婚し、2007年、子(法定代理人母)が父に扶養料を請求し、終期は子が20歳、月3万円との調停が成立した。その後、子が私立高校に進学したので、母は父に対して養育費を請求し、前記扶養料に加えて養育費1万円の支払いを命じる養育費審判が確定した。2016年、子が大学に進学したので、前記扶養料、養育費のいずれにつても、増額変更の調停が申し立てられ(養育費を甲事件、扶養料を乙事件とする)、いずれも不調に終わった。原審(大津家裁長浜支部)は、増額および終期を変更すべき事情の変更があるとして、甲乙いずれについても判断した。
[決定の概要]
原審乙事件申立人が20歳に達し前件の養育費審判事件の支払終期が到来したのを機に、扶養料等に関する債務名義を一本化するのが相当であるとして、支払の終期を大学卒業時までと延長し、支払額の変更については、学費を含め前件扶養料調停事件の支払額を増額更する方法により調整し、養育費の増額変更を却下した。
[ひとこと]
子の養育費を請求する方法には、扶養料、養育費、離婚前ならば婚姻費用分担請求があり、子が申し立てる扶養料と監護親が申し立てる養育費は、選択的関係にあるとされるが、このような複雑な事案も生ずることになる。それを、整理して一本化したという珍しい事案である。

2018.1.30
離婚後に義務者が再婚し、再婚相手の子ら2名と養子縁組をし、権利者義務者双方が転職して収入変動があり、当初の合意は算定表の額を上回っていたという場合に、減額の算定方法を示した例
[札幌高裁2018(平成30)年1月30日決定 判時2373号49頁、家庭の法と裁判23号60頁、LEX/DB25560987]
[事案の概要]
原審申立人(父)と原審相手方(母)は、2015年、離婚するに際し、子の監護に関する公正証書により、長女A(2013年生)の養育費を月4万円と合意した。父は、2017年に再婚し、再婚相手の長男B及び長女Cと養子縁組をした。父の2015年の収入は272万円であったが、2017年に再就職し月20万円の給与を得ている。母の2015年の収入は316万8000円であったが、転職し、2017年の給与を年額に換算すると237万5275円となる。
父は母に対し、事情変更があるとして長女の養育費の月額を6,616円に減額することを求める調停を申し立てたところ、原審旭川家裁は、平成29年以降月3万3000円に減額することを認めた。双方から抗告がなされた。
[決定の概要]
現在の双方の収入や扶養家族の状況を前提として算定表で試算するとAの養育費年額は11万1044円、つまり月額9,254円(再婚相手もBCの扶養義務を有することも考慮して計算)、最初の合意時は、算定表による額を上回る2万4718円を加算する趣旨であったと解し、これを、子ら3人の生活費指数で按分してAの加算分を1万0222円と算定、これを前記の9,254円に加えると1万9476円、結果、調停申立以降の2017年〇月以降、月額2万円が相当として減額を認めた。
[ひとこと]
詳細な計算方法が参考になる。

2017.12.15
私立医学部に進学した長男(成人)から、父に対して、医学部学費等を扶養料として支払うことを求める審判を申立てたところ、父母間で決めた養育費のほかに、学費として一定額の扶養料の支払いが命じられた例
[大阪高裁2017(平成29)年12月15日決定 判時2373号38頁、LEX/DB25560985、 原審:京都家裁福知山支部2017(平成29)年9月4日審判、判時2373号44頁、LEX/DB25560986、家庭の法と裁判17号53頁]
原審申立人は、原審相手方である父の長男である。原審相手方は開業医(平成28年の事業所得4851万円)、母は薬剤師であり、原審相手方の不貞が発覚したより後に父母は別居し、2012(平成24)年、子らが卒業するまで一人あたり月25万円の養育費、及び500万円の一括金の養育費の支払いを取り決めて調停離婚した。原審相手方は再婚しており、再婚後は子らとの面会を断るようになった。原審申立人に要する大学学納金やPTA会費の合計額は6年間で約3200万円である。
[決定の概要]
@について
「原審相手方は、母への離婚申入れ当時(2010/平成22年)から、原審申立人が医学部を含めて大学を卒業するまで原審申立人を扶養する義務を引き受ける旨伝え、本件離婚時(2012/平成24年)にも、養育費支払義務の終期を原審申立人の医学部を含む大学卒業までとすることを了承している。したがって、原審相手方は、原審申立人の大学在学中、母とともに、原審申立人の扶養義務を負う。また、原審相手方は、母への離婚申入れ当時(原審申立人15歳)から、月々支払う養育費には学費を含んでいるが、原審申立人が私立大学の医学部に進学した場合に養育費とは別に大学在学中の費用をできるだけ負担する旨申し出ている。そして、原審相手方の属性をみると、父親が医師で、自らも医師として稼働し、本件離婚時点には、開業医として高額な収入を得ており、その状況に変わりはない。その上、原審相手方は、原審申立人から、高校卒業後の進路について相談を受けた際、医学部への進学も考えている旨聞かされて賛同する意向を示しており、その間、原審申立人が私立大学の医学部へ進学することを否定する旨明言した形跡はない。そのような中で、原審相手方は、原審申立人が私立高校3年生で大学受験を控えていた本件離婚時に、子らの養育費(1人当たり月額25万円)の支払とは別に、私立大学の医学部に進学する場合を想定した本件協議条項(注:医学部進学の場合の協議事項を指す)に合意しているのである。以上のとおりの本件協議条項の文言に加え、本件協議条項を合意するに至った経緯、原審相手方の属性、原審申立人の進路等に関する原審相手方の意向等を総合考慮すれば、原審相手方は、本件離婚当時、原審申立人が私立大学医学部への進学を希望すればその希望に沿いたいとし、その場合、養育費のみでは学費等を賄えない事態が生じることを想定し、原審申立人からの申し出により、一定の追加費用を負担する意向を有していたと認めるのが相当である。
(中略)原審申立人が本件医学部に進学したことで、本件離婚の際に合意された養育費(一時金を含む。)では私立大学の医学部の学費等を賄えないという本件協議条項の想定した事態が現に生じている。したがって、原審申立人が原審相手方に対して本件協議条項に基づき追加の費用負担を求めている以上、原審相手方は、これに従い、上記の養育費のほかに一定の扶養料を分担する義務を負うというべきである。(中略)扶養料(年額150万円)の支払方法は分割とし、その時期は各納付月の前月とし、その額は各納付の比率に合わせることが相当であり、具体的には、当該年度開始(4月)の直前の2月末日限り80万円、同年7月末日及び同年11月末日限り各35万円とする。」

2017.12.8
大学学費についての給付の訴えの例
[東京地裁2017(平成29)年12月8日判決 LEX/DB25551397]
離婚裁判における訴訟上の和解により定めた子の大学の入学金及び授業料について、和解条項の文言に照らし、給付の訴えの必要性および将来請求の必要性を認め、期限の定めのない債務とし、支払いの範囲は入学金及び授業料の半額とした例

2017.11.9
大学進学のための費用のうち通常の養育費に含まれている教育費を超えて必要となる費用につき相手方(父)の負担を否定しつつ、養育費の終期を「20歳」から「22歳の3月まで」に変更した例
[東京高裁2017(平成29)年11月9日決定 判例時報2364号40頁、家庭の法と裁判23号79頁、LEX/DB25560212]
[事案の概要]
審判により、相手方(父)が抗告人(母)に対し、子の養育費として、子が成人に達する日の属する月まで毎月5万5000円ずつ支払うことが命じられていた。相手方は、子の大学進学について明示の承諾をしていない。その後、子は平成28年4月に私立大学に進学し多額の学費負担が必要になった。なお、高校も私学であった。相手方は、認知していた2人の子の母と再婚した。抗告人(原審申立人母)は、@双方の収入に応じて大学の学費を分担すること、A養育費支払の終期を22歳に達した後の最初の3月まで延長することを求めて審判を申し立てた。原審(さいたま家川越支審2017年8月18日、LEX/DB25560213])は、本件の当事者の学歴、職業、資産、収入等の諸事情に照らせば、相手方が私立大学卒の私学の教員で相当額の収入を得ているとしても、未成年者と別生活を送る相手方に対し、通常の養育費の他に、大学の学費を負担させることが相当な場合に当たるとまでは認められないとして、申立てを却下したので、申立人は抗告した。
[決定の概要]
@について
「大学進学のための費用のうち通常の養育費に含まれている教育費を超えて必要となる費用は、養育費の支払義務者が当然に負担しなければならないものではなく、大学進学了解の有無、支払義務者の地位、学歴、収入等を考慮して負担義務の存否を判断すべきである。
本件においては、相手方は本人が私立高校に通学することに反対し、本人の私立大学進学も了解していなかったと認められること、通常の養育費に含まれる教育費を超えて必要となる費用は本人が大学進学後は奨学金等による援助を受けたり、アルバイトによる収入で補填したりすることが可能と考えられること、抗告人の収入はわずかであり相手方には扶養すべき子が多数いるという中で私立大学に進学した本人に対して奨学金やアルバイト収入で教育費の不足分を補うように求めることは不当ではないこと、前件審判時以降抗告人と相手方の収入はほとんど変化がないこと、前件審判においては、通常の養育費として公立高校の学校教育費を考慮した標準算定方式による試算結果を1か月当たり5000円超えた額の支払が命じられていることからすると、相手方に対し、通常の養育費に加えて、本人が通学する私立大学への学納金について、支払義務を負わせるのは相当でない。」として変更を認めず、
Aについて
「相手方は、親として、未成熟子に対して、自己と同一の水準の生活を確保する義務を負っているといえること、本人は成人後も大学生であって、現に大学卒業時までは自ら生活をするだけの収入を得ることはできず、なお未成年者と同視できる未成熟子であること、相手方は本人の私立大学進学を了解していなかったと認められるが、およそ大学進学に反対していたとは認められないこと、相手方は大学卒の学歴や高校教師としての地位を有し、年収900万円以上あること、相手方には本人の他に養育すべき子が3人いるとしても、そのうちの2人は未だ14歳未満であることに照らすと、相手方には、本人が大学に通学するのに通常必要とする期間、通常の養育費を負担する義務があると認めるべきである。そして、相手方は抗告人に対し、本人が大学に進学した後も成人に達する日の属する月まで毎月5万5000円ずつの支払義務を負っていたから、毎月同額を本人が満22歳に達した後の最初の3月までの支払を命じるのが相当である。」とし、原審判を変更し、養育費の終期を、「満22歳に達した最初の月の3月まで」とした。

2017.9.20
親権者である母が再婚し、子らと再婚相手が養子縁組したことは、養育費を見直すべき事情に該当し、養親らだけでは子らについて十分に扶養義務を履行することができないときは、非親権者である実親は、その不足分を補う養育費を支払う義務を負い、その額は、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきとされた例
[福岡高裁2017(平成29)年9月20日決定 判時2366号25頁、家庭の法と裁判23号87頁]
[事案の概要]
抗告人(原審相手方・母)と相手方(原審申立人・父、医師)は、平成25年、訴訟上の和解合意に基づき離婚した。その際、親権者を母、子ら2人の養育費を一人あたり月10万円と合意した。その後、母は再婚し、再婚相手と子らは養子縁組をしたので、実父(元夫)は、養育費を免除または相当額に減額することを求めた。
[決定の概要]
「両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組した場合、当該子の扶養義務は第一次的には親権者及び養親となったその再婚相手が負うべきものであるから、かかる事情は、非親権者が親権者に対して支払うべき子の養育費を見直すべき事情に当たり、親権者及びその再婚相手(以下『養親ら』という。)の資力が十分でなく、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないときは、第二次的に非親権者は親権者に対して、その不足分を補う養育費を支払う義務を負うものと解すべきである。
そして、何をもって十分に扶養義務を履行することができないとするかは、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきである。…生活保護制度の保護の基準では、学校外活動費は教育扶助の対象となっていないが、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないかを判断するにあたっては、養親の扶養義務の根拠の一つが養子縁組をする当事者の意思にあることに照らせば、非親権者である実親について合理的に推認される意思をも参酌すべきであり、相手方の学歴、職業、収入等のほか、相手方は離婚後毎月1回程度、東京から〇市まで出向いて未成年者らとの面会交流を継続していることなどに鑑みると、相手方には、未成年者らに人並みの学校外教育等を施すことができる程度の水準の生活をさせる意思はあるものと推認することができる…」とし、子1人あたり月3万円とするのが相当とし、かつ、母の育児休業期間中は子1人あたり4万円とするのが相当として、原審判を変更した。

2017.8.18
未成年者の父である抗告人が、未成年者の母である相手方に対し、和解離婚した際に定めた養育費の減額を求めた事案において、事情の変更があるとして減額変更を認めた事例
[福岡高決2017(平成29)年8月18日 家庭の法と裁判27号44頁]
[事案の概要]
抗告人(父)と被抗告人(母)は、婚姻して、2001年に未成年者をもうけた。
2007年、父と母は和解離婚したが、その際、父が母に対し、未成年者の養育費として、未成年者が満20歳に達する日の属する月まで月額8万円を支払う旨を合意した。
その後、父は再婚し、再婚相手との間に子をもうけた。
2018年9月、父は勤務先Aを定年退職し、関連会社Bに再就職した。
2018年10月、父は母に対し、未成年者の養育費の減額を求めて調停を申し立てた。
2019年2月、父はめまい症が生じたためBを退職し、以後、稼働していない。Aからの退職金はいまだ受領しておらず、年金の支給や退職金の支払いが受けられるまでの間、預貯金を年間120万円取り崩して生活していく方針であった。
原審(広島家裁)は、未成年者が成人する前に父が定年を迎えることは父において予想し得たから、父が定年退職したことは事情の変更に当たらないが、父が再婚相手との間に子をもうけたこと、及び父がBを退職して無職になったことは事情の変更になり得るとした上で、2019年3月から養育費を2万円減額するのが相当であるところ、同月から5か月の減額分(10万円)は双方の生活の安定を考慮して同年8月から5か月分の養育費において調整するとして、同年8月分から同年12月分までを月額4万円、2020年1月分以降を月額6万円と、それぞれ減額変更する旨の審判をした。
父は、広島高裁に抗告した。
[決定の概要]
1 事情の変更の有無
@再婚して子をもうけ、新たな扶養義務者が生じたこと
A定年退職により2018年10月以降の収入が減少したこと
B再就職先の退職により2019年3月以降の収入がなくなったこと
は、いずれも、「本件和解条項の基礎とされた事情の変更に当たる」。
なお、Aについて、未成年者が満20歳に属する日の属する月の前に父が定年退職を迎えることは、本件和解離婚当時に父において予測することが可能であったとはいえるものの、「予測された定年退職の時期は、本件和解離婚当時から10年以上先のことであり、定年退職の時期自体、勤務先の定めによって変動し得る上、定年退職後の稼働状況ないし収入状況について、本件和解離婚当時に的確に予測可能であったとは認められない」。
2 事情の変更の始期
「当事者双方の公平と明確性の視点から、抗告人が養育費の減額を求める調停を申し立てた」2018年10月とするのが相当である。
3 変更後の養育費の額の算定
(1)2018年10月〜2019年2月
父の再就職先での収入を総収入額とみて、養育費の額を月額3万円に減額変更した。
(2)2019年3月〜未成年者が満20歳に属する日の属する月
父が「現在無収入の状態にあることにはやむを得ない事情があるといえる」が、「預貯金を年間120万円取り崩して生活していく方針であることから」、未成年者の養育費額を算定するに当たっては、父の「基礎収入の額を年額120万円とみるのが相当である」として、月額2万円に減額変更した。

2017.1.12
原告の請求のうち、調停調書という強制執行力のある債務名義を取得している部分については、訴えの利益がないとして一部却下した例
[東京地裁2017(平成29)年1月12日判決 LEX/DB25538917]
[事案の概要]
原告(母)と被告(父)は、2009(平成21)年に協議離婚した。原告と被告は、2014(平成26)年7月養育費の支払義務を定める調停を成立させた。原告は、調停で定めた支払い開始月より前の養育費を協議離婚書に基づき請求し、かつ、調停で定められた養育費支払い義務の一部未履行部分を請求した。
[判決の概要]
原告の請求のうち、調停で定めた養育費の支払開始月より前の未払養育費の支払を求める部分については、私法上の合意に基づく請求として、民事訴訟によりその給付を請求することができるとして認容し、他方、調停で定められた養育費支払義務の一部未履行分を請求する部分については、既に原告が、調停調書という強制執行力のある債務名義を取得している以上、訴えの利益がないとして却下した。
[ひとこと]
原告に代理人がついておらず、一部間違って提訴したものと思われる。

2016.12.6
子が父母の離婚後、母の再婚相手と養子縁組をしたことに伴い、養育費額を減額する始期について、義務者からの養育費の減額を求める調停申立の時ではなく、それ以前の別審判事件で義務者が支払い義務がないことを主張し、実際に養育費の支払いを打ち切った時期とした例
[東京高裁2016(平成28)年12月6日決定 判タ1446号122頁、家庭の法と裁判17号101頁、LEX/DB25560080]
[事案の概要]
抗告人(原審申立人、父)と相手方(原審相手方、妻)は元夫婦であり、2人の間の未成年者らの親権者を相手方と定めて離婚した。その後、平成26年5月、相手方が再婚し、再婚相手と未成年者らとが養子縁組をした。同年7月父はこの事実を知ったが養育費の支払いを継続したが、同年11月付の準備書面で、同年5月以降は支払い義務がないとの主張をした。そして、平成27年4月には、その支払いを打ち切った。
抗告人は、離婚の際に作成した公正証書により支払うべき養育費を零とすることを求め、原審判は、(父からの養育費調停申立ての)平成28年3月分以降の未成年者らの養育費を零と変更した。これに対し、抗告人が、その減額の始期を不服として抗告した。
[決定の概要]
決定は、原審判を変更し、「養育費を零に減額すべき始期について検討すると、かかる点についての判断は、家事審判事件における裁判所の合理的な裁量に委ねられているところ、累積した過去分を一度に請求される危険(養育費請求又は増額請求の場合)や既に支払われて費消した過去分の返還を求められる危険(養育費減額請求の場合)と明確性の観点から、原則として、養育費の請求、増額請求又は減額請求を行う者がその相手に対してその旨の意思を表明した時とするのが相当である」として、本件では、「抗告人は、相手方に対し、遅くとも同月(審判で支払義務のないことを主張した後に支払いを実際に打ち切った時期のこと)には、養育費の額を零とすることを黙示的に申入れたと認めることができる。」として、平成27年4月以降の養育費の支払義務を免除した。

2016.10.13
養育費につき、子が私立学校に進学し入寮したことによる食費・光熱費の権利者(母)の負担減、義務者(父)が再婚相手の連れ子と縁組したことによる負担増等を考慮し、原審の認容額9万7000円を4万4000円に減額した例
[大阪高裁2016(平成28)年10月13日決定 判時2322号70頁、判タ1437号108頁、家庭の法と裁判19号95頁]
[事案の概要]
夫婦は2012(平成24)年に3人の子らの親権者をいずれも母と定めて離婚した。本件養育費の審理対象は三男(以下、「A」とする)のみである。
母の収入は、2014(平成26)年は205万円、2015(平成27)年は209万円、父は事業収入を得ており、2014(平成26)年の所得金額は497万円、2015(平成27)年のそれは416万円であった。
父は、原審の審判直後に再婚し、再婚相手Pの子(16歳)と縁組した。
Aは、2016(平成28)年に私立高校に進学した。義務者は同校への進学に同意している。その学費及び入学金は免除されているが、寮費は年に約85万円を要する。原審(神戸家裁姫路支審2016(平成28)年7月1日)は、月額97,000円の養育費の支払いを命じた。
[決定の概要]
「未成年者は、上記進学に伴い入寮し、上記学費の相当部分が食費、光熱費を含む寮費に充てられるところ、上記入寮の限度で相手方(母)は食費及び光熱費の負担が軽減することが認められる。そして、上記負担の軽減される額について検討すると、1級地−1における生活扶助基準の居宅第一類(飲食物費、被服費等個人単位で消費する費用)が15歳〜19歳で月額4万5677円、居宅第二類(光熱費、家具什器購入費等世帯全体で消費する費用)が世帯人数1人で月額4万3798円、同2人で月額4万8476円であること、世帯人数の減少が直ちに人数に応じた支出の減少につながるとはいい難いこと及び標準的算定方式により算定される養育費の額及び相手方の基礎収入額を考慮すれば、食費につき上記4万5677円の約6割に当たる月額2万7000円が軽減され、光熱費につき上記世帯人数2人の生活扶助基準額と同1人の額の差の約4分の1に当たる月額1000円が軽減されると認められる。したがって、この月額合計2万8000円を養育費から控除すべきものである。
また、抗告人は、平成28年7月11日、Pと婚姻し、同日、同女の長男(16歳)と養子縁組を行い、上記長男に対する扶養義務を負担するに至った。これを前提として抗告人の未成年者に対する養育費の額を標準的算定方式により算定すると、月額4万4000円程度となる。 」として、原審の認容額より減額し、高校卒業までは4万8000円、高校卒業後満20歳になるまでは4万4000円の養育費の支払いを命じた。
[ひとこと]
入寮による食費・光熱費の負担減につき、特別事情として個別計算をしているので、相当に複雑な計算となっているが参考になる。

2016.7.8
離婚時の公正証書では算定表よりも高く取り決めていたが、父母双方が再婚し、双方に再婚後の子が出生したなど種々の事情変更があり、公正証書の趣旨を反映しつつ、減額請求が認められた例
[東京高裁2016(平成28)年7月8日決定 判時2330号28頁、判タ1437号113頁、家庭の法と裁判10号73頁、LEX/DB25546024]


2016.1.19
養育費の算定に当たり、失職した義務者の収入について、潜在的稼働能力に基づき認定することが許されるのは、就労が制限される客観的、合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される場合であり、原審は、この点を十分に審理していないとして、原審を取り消し、差し戻した事例
[東京高裁平成28(2016)年1月19日決定 判タ1429号129頁、家庭の法と裁判8号62頁]
[事案の概要]
抗告人(元夫)は、被抗告人(元妻)に対し、未成年者らの養育費として合意に基づき子1人あたり月6万円を支払ってきた。合意の前提となった2011年の抗告人の給与収入は年約750万円、被抗告人のそれは約113万円、2013年の抗告人の収入は約605万円、被抗告人のそれは293万円であった。抗告人は、2014年に養育費減額請求の調停を申し立てた。抗告人は調停中に失職し、就職活動をして雇用保険を得ていたが、審判時もまだ就職できていなかった。原審の東京家裁立川支部は、賃金センサス産業計・男・学歴計・50〜54歳の年収約678万円に鑑みても、抗告人は、少なくとも平2011年の抗告人の年収である605万円程度の稼働能力があるとみられるとして、子1人あたり月4万円に減額するのを相当とした。抗告人は、これを不服として抗告した。
[決定の概要]
「養育費は、当事者が現に得ている実収入に基づき算定するのが原則であり、義務者が無職であったり、低額の収入しか得ていないときは、就労が制限される客観的・合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される場合に初めて、義務者が本来の稼働能力(潜在的稼働能力)を発揮したら得られるであろう収入を諸般の事情から推認し、これを養育費算定の基礎とすることが許されるというべきである。・・・抗告人の主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮していないものであり、相手方との養育費分担との関係で公平に反すると評価されるものかどうか、仮にそのように評価されるものである場合においいて、抗告人の潜在的稼働能力に基づく収入はいつから、いくらと推認するのが相当であるかは、抗告人の退職理由、退職直前の収入、就職活動の具体的内容とその結果、求人状況、抗告人の職歴等の諸般の事情を審理した上でなければ判断できないというべきであるが、原審は、こうした点について十分に心理しているとはいえない」として、原審判を取り消して、差し戻した。

2015.11.13
離婚時の養育費の合意が私法上有効であることから民事訴訟手続によって請求し得るとし、さらに、経済的困窮により合意の履行が困難であることから将来給付を求める訴えの利益があるとして、養育費の未払分及び将来分の請求をいずれも認容した事案
[東京地裁2015(平成27)年11月13日判決 LEX/DB25532001]
[事案の概要]
XとYは、2001(平成13)年に婚姻し、2002(平成14)年には長男が出生した。
しかし、2004(平成16)年、XとYは、親権者をX(母)として協議離婚した。
離婚時、養育費として、同年12月から2015(平成27)年3月まで1か月4万円、同年4月から長男が成年に達する月まで1か月7万円を支払う旨合意した。
Yは、2017(平成25)年2月分以降の養育費を支払わず、将来分の支払も見込みがないことから、XはYに対し、養育費の未払分及び将来分の支払を求めて地方裁判所に提訴した。
[判決の概要]
判決では、「本件合意は、未成年者の監護に要する費用を父母である原告と被告が協議により定めたものであるから私法上の合意として有効であり、原告は、民事訴訟手続により本件合意に基づく給付を請求し得ることになる。」として、民事訴訟手続によることを認めた。
さらに、「被告が経済的困窮により本件合意の履行が困難であることを主張しており、本判決我確定しても任意に本件合意に基づく債務を履行する見込みが乏しいことが明らかであることからすれば、上記養育費について将来給付を求める訴えの利益があると認めることが相当である」として、将来分の養育費についても合意の終期までの将来分の請求を認めた。

2015.4.22
子の大学の学費についての負担額を算定し、終期を22歳になった後の3月までとした例
[大阪高裁平成27(2015)年4月22日決定 判タ1424号95頁、家庭の法と裁判6号70頁]
[事案の概要]
夫婦は1995(平成7)年に婚姻し、長女(1995年生)、二女(1997年生)の2子をもうけたが、2012(平成24)年に親権者を母(申立人)と定めて離婚した。父は別の女性と同居している。
長女は私立大学に通学し、二女は盲学校に通学している。父の年収は約334万円、母の年収は約192万円である。母は私学の学費、通学費等の負担を求めたが、父は私学への進学を認めていないとして争った。
[決定の概要]
長女については、満22歳に達する年の翌年の3月まで月額3万円、二女については、満 20歳になるまで月額2万1000円の支払いを、相手方父に命じた。
相手方が、私立大学の費用の負担を了承していたとは認められないが、国立大学進学は視野にいれていたことは認められるとした。そのうえで、長女の学費等について、子の大学進学の経緯や親の収入等を考慮して、国立大学の学費標準額53万800円及び通学費13万円(合計66万5800円)から、標準的算定方式において予め考慮されている公立高校を前提とする標準的学習費用(33万3844円)を控除した額に、非監護親が負担すべき割合(3分の1とした)を乗じて算定した額の限度で認め、算定表で算出される額に加算して認めた。原審は、和歌山家審平成27年1月23日。
[ひとこと]
大学の費用の負担額や割合は、しばしば争点となるが、その参考になる一例。
また、終期を20歳までとせず22歳の翌年の3月までとした点も特徴的である。

2014.6.30
再婚、養子縁組や新たな子の出生等の事情がある場合において、民法880条にいう「事情に変更を生じたとき」に該当するとして養育費を減額した事例
[福岡高裁平成26(2014)年6月30日決定 判タ1410号100頁、家庭の法と裁判1号88頁]
[事案の概要]
XY夫婦は子A、Bの親権者を妻、養育費を満20歳まで1人あたり月20万円と決めて調停離婚した。約5年後、元夫XはD女と再婚し、Dの子E、Fと養子縁組し、その後、Dとの間にGが出生し、E、F、Gを養育している。元妻YもC男と再婚し、一緒にA、Bを養育している。CはA、Bと養子縁組をしていない。XからYに対し、双方の収入状況も変わっていることなどから養育費の減額を申立てた。Xは年収2000万円を超える高額所得者である。
[決定の概要]
「年収2000万円を超える高額所得者の場合は、基礎収入割合はさらに低くなると考えられるから、抗告人の職業及び年収額等を考慮して、抗告人の基礎収入割合を27パーセントとするのが相当であり、その基礎収入額は1666万円4000円(1000円未満四捨五入。以下同じ。)となる。」
「未成年者らが抗告人と同居していたと仮定した場合の未成年者らの生活費に充てられる金額を算定すると、抗告人の生活指数を100、E、F、G、未成年者らの生活指数をそれぞれ55として、年間488万8000円となる(計算式:1666万4000円×(55+55)÷(100+55+55+55+55+55))。
この金額を、抗告人と相手方の基礎収入額で按分すると、抗告人が未成年者らのために負担すべき費用は年間404万円となり(計算式:488万8000円×1666万4000円÷(1666万4000円+349万8000円))、1か月では33万7000円(一人当たり16万9000円)となる。」
「(養子縁組、子の出生は)調停時には想定されていなかった事情であり、これらによってそれぞれの生活状況は大きく変化し、・・・抗告人が負担すべき未成年者の養育費の算定結果も相当程度変わっていうというのであるから、民法880条にいう「事情に変更を生じたとき」に該当するというべきである。」として、一人あたりの養育費月額20万円を月額17万円に変更した。

2013.10.9
養育費についての債権差押命令(給与等の差押え)について、確定期限が到来していない将来差押えの部分につき、その必要性が失われたとして民事執行法153条1項による取消しが認められた例
[東京地裁2013(平成25)年10月9日決定 金融法務事情1994号107頁]
[事案の概要]
夫婦は調停離婚した。調停調書では、父は母に対し、子らの養育費をそれぞれ20歳に達する月まで支払うと取り決めた。しかし、父が養育費の支払いを怠り、母が父の給与、賞与及び退職金債権の差押えをし、養育費の確定期限到来分(過去分)と確定期限未到来分(将来分)を差し押さえる旨の命令が発令された。
父は、差押命令の請求債権である養育費全額(20歳までの総額)を自分の代理人弁護士に預託し、妻に対して、全額を払うことを提案して差押えの取り下げを求めた。しかし、妻は、取下げの条件として、調停で合意していない私立学校の入学金の一部の支払いや、妻が支払義務を負う解決金の一部免除を求め、合意に至らなかった。父及びその代理人は代理人に預けた金375万円を養育費の支払いに充てることを誓約している。
父は、確定期限の到来していない養育費を請求債権とする差押え部分の必要性がなくなったと主張して、民事執行法153条1項に基づき、差押え命令のうち、上記部分の取消しを申し立てた。
[決定の抜粋]
「…本件差押命令が維持されることによって申立人が第三債務者からの退職を余儀なくされるおそれも否定できず、仮にそうなれば、本件差押命令による被差押債権が存在しなくなることはもとより、再就職するまで養育費の支払原資に事欠くなど本末転倒の結果になりかねない。
前記認定のとおり、申立人は、本件差押命令が発令されるまではたびたび養育費の支払を遅滞したものの、本件差押命令の発令後は、当時支払期限の到来していた養育費等を一括して支払った上、その後も期限が到来した養育費を送金した。加えて、申立人は、平成25年6月、その代理人に対し期限未到来分を含めた養育費全額相当額を預託した上、相手方に対し期限未到来分も含めた養育費全額を直ちに支払うことを提案し、現在までに、これを養育費の支払に充てる旨代理人とともに誓約しているのであるから、客観的に養育費の任意履行が見込まれる状況にあるといえる(現在まで現実に一括支払がされていないのは、前記認定の交渉経緯があって条件が折り合わないからにすぎない)。したがって、本件差押命令発令時点で養育費支払義務の一部不履行があったことによる予備的差押えの必要性は、現時点では失われたというべきであり、本件差押命令のうち、平成25年10月末日以降に支払期が到来する請求債権による差押えの部分を取り消すことが相当である。」
[ひとこと]
事情を考慮して取消しを認めた珍しい裁判例である。債務者の勤務先会社(第三者)が、差押えが続けば退職を求めると債務者に告げていることも事情の1つとされている。
民事執行法153条1項は、「執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる。」と定めている。

2011.3.18
妻が夫以外の男性との間にもうけた子につき、当該子と法律上の親子関係がある夫に対し、離婚後の監護費用の分担を求めることが権利の濫用に当たるとされた事例
[裁判所]最高裁第二小法廷
[年月日]2011(平成23)年3月18日判決
[出典]家月63巻9号58頁、判時2115号55頁
[事案の概要]
夫と妻は,1991年に婚姻し,1996年に長男,1999年に三男が出生した。1998年に生まれた二男と夫は自然的血縁関係はなく,妻は同年にはそのことを知ったが,夫には告げなかった。夫は,妻に,2000年1月から2003年末まで,ほぼ毎月150万円程度の生活費を交付してきた。2004年1月には夫の不貞等が原因で夫と妻との婚姻関係は破たんしたが,その後婚姻費用を月額55万円とする旨の審判が確定した。
夫は2005年に初めて二男との間に自然的血縁関係がないことを知り,同年親子関係不存在確認の訴え等を提起したが,却下する判決が言い渡された(確定)。
夫が妻に対し離婚等を請求し,妻も反訴したところ,原審(東京高裁2008(平成22)年11月6日)判決)は,長男,二男,三男の親権者を妻と定めたほか,二男の監護費用につき,二男との間に法律上の親子関係がある以上,夫は監護費用を分担する義務を負い,その額も長男と三男と同額(月額14万円)を相当とした。夫が上告。
[判決の概要]
被上告人は,上告人に,二男と上告人との間に自然的血縁関係がないことを告げず,上告人がこれを知ったのは,二男の出産から約7年後のことであった。そのため,上告人は,出訴期間内に嫡出否認の訴えを提起することができず,親子関係不存在確認の訴えは却下され,もはや親子関係を否定する法的手段は残されていない。
他方,上告人はこれまでに二男の養育・監護のための費用を十分に分担してきた。
さらに,被上告人は離婚に伴い,相当多額の財産分与を受ける(合計約1270万円)。二男の監護費用を専ら被上告人に分担させても,子の福祉に反することにはならない。
以上の事情を総合考慮すると,被上告人が上告人に対し離婚後の二男の監護費用の分担を求めることは,権利の濫用に当たる。原判決中,二男の監護費用の分担に関する部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消し,同部分に関する被上告人の申立てを却下する。
[ひとこと]
親子関係の成立を認めながら,その効果の一部(扶養義務)を否定したものである。民法772条の嫡出推定が及び、嫡出否認の訴えが提訴期間徒過、判例の外観説(民法772条の推定が及ばない場合を,夫の失踪,事実上の離婚,夫が海外滞在中あるいは収監中など,懐胎期間中に夫との性交渉がなかったことが,同棲の欠如によって外観上明白な場合に限るという考え方。最判昭44・5・29 民集23巻6号1064頁、最判平10・8・31 家月51巻4号33頁,最判平10・8・31 家月51巻4号75頁,最判H12・3・14家月52巻9号85頁)より親子関係不存在確認請求も訴訟要件なしとして却下された上で,扶養義務が認められないことになった。 法的親子関係を認めながら、その法的効果である扶養義務を認めないというちぐはぐな結論になった本事案には,民法772条の問題点があらわになっている。
親子関係を否定する法的手段がなくなっている上,親子関係の効果を認められないというのは,二男にとって著しい不利益といえる。相続はどうなるのかなど,親子関係の効果についてなお不安定さを残す判断である。

2009.12.21
元夫が元妻の不貞行為の子を約18年間実子として養育してきたことについて、元夫の元妻に対する養育費相当額の不当利得返還請求が認められなかった事例
[裁判所] 東京高裁
[年月日] 2009(平成21)年12月21日判決
[出典]  判例時報2100号43頁


2007.11.22
養育費請求事件の執行力ある審判正本に基づき、1日につき各1000円の間接強制金の支払を命じた事例
[裁判所]広島家裁
[年月日]2007(平成19)年11月22日決定
[出典]家裁月報60巻4号92頁
[事案の概要]
債権者は、平成11年、親権者を債権者と定めて債務者と協議離婚。その後、養育費の支払を求める調停を申立てたが、調停は不成立となって審判に移行、債務者の平成15年の給与収入が約724万円であること等が認定され、直ちに未払い分35万円と毎月5万円の支払を命じる審判がなされ、平成16年4月に確定した。債務者は、平成19年1月以降養育費の支払をしなかったため、債権者は履行勧告を申立てたが、債務者はまったく回答しなかった。
[決定の概要]
債務者は、裁判所の審尋に対して何ら主張立証をしない。債務の性質が養育費であること、債務者が上記給与収入を得ていたこと、債務者は平成18年12月まで支払っていたがその後10ヶ月間不履行を続けていることを考慮し、間接強制金の累積により過酷な状況が生じるおそれがあることを考え、次のとおり命じた。
(1)決定の送達を受けた日から10日以内に(但し、Aの金員のうち、この期間内に弁済期が到来しないものについては、それぞれ弁済期が経過するまでに)、下記@ないしBの金員を支払え。
 @50万円(平成19年1月分から同年10月分の合計)。
 A平成19年11月から平成20年4月まで毎月末日限り5万円。
 B執行費用6020円。
(2)@の支払がないときは、上記期間の翌日から支払済みまで(但し、180日間を限度とする。)、1日につき1000円を支払え。
(3)Aの支払がないときは、毎月分全額の支払がなされないごとに、各月分の期限の翌日から支払済みまで(但し、30日間を限度とする。)、1日につき1000円を支払え。
[ひとこと]
決定の主文には裁判所の工夫が見られるが、内容がわかりにくいものとなっている。

2007.11.9
再婚相手の子との養子縁組による社会保険料の増加及び仕事用のトラックのレンタル料支払いによる収入減少は、調停時に十分予測可能であったとして養育費の減額が認められなかった例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2007(平成19)年11月9日決定
[出典]家月60巻6号43頁
[事案の概要]
夫婦は平成15年に離婚し、平成18年6月、被抗告人夫が未成年者1人につき、月額2万2000円の養育費を支払う旨の調停が成立した。
原審で、夫が、養育費を月額1万1000円に減額するように求めた。
夫の平成17年の課税される所得金額は293万3000円、平成18年のそれは92万3000円、 所得減は、経費として月10万5000円のレンタル料発生、社会保険料76万円増加等による。
[原審]
原審は、夫からの養育費の減額請求を認め、未成年者1人につき、月額1万5000円に変更する旨の審判をした。
それに対し、妻が即時抗告を求めた。
[決定の概要]
調停調書の記載は確定判決と同一の効力を有するものであるから、その内容は最大限尊重されなければならず、調停の当時、当事者に予測不能であったことが後に生じた場合に限り、これを事情の変更と評価して調停の内容を変更することが認められるものである。
本件においては、調停成立時、再婚し、再婚相手の長女と養子縁組をしており、トラックを買い換えるか又はトラックをレンタルで借りるかしなければならない事情を認識していた支払義務者(父)としては、婚姻と養子縁組による社会保険料の増加及びトラックのレンタル料の支払による総収入の減少について具体的に認識していたか、少なくとも十分予見可能であったというべきであるから、当該総収入の減少は養育費を減額すべき事情の変更ということはできない。
以上のように判示して、原審判を取り消し、夫からの養育費の減額請求の申立てを却下した。
[ひとこと]
支払義務者の予見可能性をかなり厳格に解した。実際にはレンタル料が必要になる前から遅滞を始めており、遅滞の真の原因は夫の主張事実だけではないことなども高裁の心証形成に影響したようである。

2007.11.9
協議離婚の際定められた養育費支払の終期について、延長を認めるべき事情変更はないとした事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2007(平成19)年11月9日決定
[出典]家月60巻6号55頁
[事案の概要]
X(元夫)とY(元妻)は、昭和62年に婚姻、平成元年に長男Aをもうけ、平成7年、長男の親権者をYと定め、XがYに対し、Aが18歳になるまで月額5万円の養育費を支払うことを合意して離婚した。Yは、平成9年にBと再婚、Bは、Aと養子縁組をし、Yとの間に長女Cをもうけたが、平成15年に死亡した。Xは、平成9年にDと再婚し、長男E長女Fをもうけた。
Xは、Aが18歳になった平成19年2月まで養育費の支払を継続したが、Aはその後も大学進学を目指して予備校に通学するなどしていたため、Yは、Xに対し、Aが22歳に達するまで月額5万円の養育費の支払を求める調停を申立てた。
原審(大阪家裁岸和田支部)は、XY双方の職業、収入、年金の受給額、ローンの支払額、債務の残額等を認定したうえ、Xに対し、Aが成人に達するまで月額1万5000円の養育費の支払を命じる審判をした。Xが抗告。
[決定の概要]
@養育費の合意を維持することが実情に照らして相当でないと認めうるような事情変更が生じた場合は、これを変更することができるとしたうえで、AXは、YがBと再婚し、Aも同人と養子縁組したこと、また、Dと再婚してEFをもうけたことを、上記合意を変更すべき事情として問題提起しなかったことを認定し、Bこれら養育費分担義務を減免させるような事情変更が一切考慮されず、Xが上記合意のとおり養育費を支払い続けたという経緯に照らせば、Aの大学入学やその準備に費用を要することをもって上記合意による養育費支払の終期の延長を認めるべき事情変更があったとみることは相当でないとして、原審判を取消し、Yの申立を却下した。

2007.11.9
再婚し,子をもうけたという事情は,再婚相手に収入がない現時点では,養育費条項を変更すべき事情に当たるが,再婚相手の育児休業期間経過後は,再婚相手も出生した子の養育費を負担できるようになることが予想されるとして,再婚相手の育児休業期間が終了する月までに限り,養育費を減額した事例
[裁判所]福島家裁会津若松支部
[年月日]2007(平成19)年11月9日審判
[出典]家月60巻6号62頁
[事案の概要]
夫婦は,平成16年,夫が妻に対し,平成17年10月から平成28年7月まで毎月6万円の養育費を支払うこと等を定めた公正証書を作成して離婚した。元夫は平成19年に再婚し,同年再婚相手との間に子をもうけた。
夫の平成18年分の給与収入は,322万3665円(支給総額)であった。再婚相手は,平成19年6月から平成20年4月まで育児休暇を取得しており,当該期間,収入がない。
[審判の概要]
申立人(元夫)が,再婚し,子をもうけたという事情は,本件養育費条項を変更すべき事情に当たるとするのが相当である。
現時点において,元夫と事件本人が同居していると仮定した場合の事件本人の生活費の割合は,再婚相手と出生した子の存在を考慮した場合,考慮しない場合の2分の1となるので,養育費の金額を2分の1(月額3万円)に変更するのが相当である。以上は,再婚相手に収入がないことを前提としたものであり,育児休業期間終了後は,再婚相手も子の養育費を負担できるようになることが予想されるから,養育費条項の減額を求める期間は,育児休業期間の終了する月までとし,その後必要があれば再度減額等の申立てをするのが相当であるとして,養育費の減額の期間を,調停申立のあった日の属する月の翌月である平成19年7月から平成20年4月までの間に限定した。
[ひとこと]
事情変更を認める一方,減額変更を認める期間を再婚相手に収入がない期間に限定し、減額を認める場合を厳格に解している。元妻が実家の援助を受けていることや,夫が妻に月々分割して慰謝料等の支払いをしていることは,養育費減額の理由にならないとしたがこれは当然である。再婚後に子が出生したことによる(被扶養者の増加)減額自体を認めないという趣旨でなく、再婚相手の稼働力により減額の幅が違うとしたと読める。

2007.9.3
養育費請求事件の執行力ある審判正本に基づき、1日につき5000円の間接強制金の支払を命じた事例
[裁判所]横浜家裁
[年月日]2007(平成19)年9月3日決定
[出典]家裁月報60号4巻90頁
[事案の概要]
債権者は2人の子の養育費の支払を、債務者は親権者の変更を申立て、債務者に対して24万円と養育費1人につき1万5000円の支払を命じ、親権者変更の申立を却下する審判が平成18年3月に確定した。債務者は、審判を不服として養育費の支払を一切しない。債権者は平成18年7月に履行勧告を申立てたが、債務者が任意の履行を拒否したため、終了した。
[決定の概要]
債務者は、養育費を支払っては債権者の親権を認めることになるので支払を拒絶すると申述し、債務を弁済するとその生活が著しく窮迫すると認められる事情を主張しない。未払い債務の額その他諸般の事情を考慮し、間接強制金の累積により過酷な状況が生じるおそれがあることを考え、債務者に対し、決定の送達を受けた日の翌日から7日以内に、未払い養育費87万円の支払を命じ、支払がないときは、175日間を限度に1日につき5000円の支払を命じた。

2007.3.30
裁判所は、離婚請求を認容する際に、監護費用の支払を求める旨の申立ての当否について審理判断しなければならないとした例
[裁判所]最高裁二小
[年月日]2007(平成19)年3月30日判決
[出典]判時1972号86頁
[事案の概要]
A(妻)とB(夫)は、平成12年10月2日に婚姻の届け出をした夫婦であり、Aは、平成13年7月16日から現在までBと別居しているが、同年10月3日にBの子を出産し、単独で監護している。Aは、本訴としてBに対し離婚を請求するとともに、平成14年10月から子が成年に達するまでの間の監護費用の分担の申立てなどをし、Bが反訴として、離婚等を請求した。原審は、離婚の効力が生ずる原判決確定の日から子が成年に達する日までの間における監護費用については、1か月8万円と定め、Bに対し、その支払いを命じたが、平成14年10月から離婚の効力が生ずるまでの間における子の監護費用分担の申立てについては、離婚の訴えに附帯して申立てをすることはできないとして不適法とした。
[判旨]
離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護にあたっている当事者から他方の当事者に対し、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には、民法771条、766条1項が類推適用されるものと解するのが相当である。そうすると、当該申立ては、人事訴訟法32条1項所定の子の監護に関する処分を求める申立てとして適法なものであるということができるから、裁判所は、離婚請求を認容する際には、当該申立ての当否について審理判断しなければならないものというべきであるとして、原判決のうち本件申立てに関する部分は破棄し、原審に差し戻した。
[ひとこと]
改正人訴法のもとでは、過去の養育費(監護費用)も離婚に附帯して請求できるとの最高裁の初判断である。普通は、離婚までの養育費(監護費用)は、配偶者のへの扶養分も含めて婚姻費用として組み立て、「過去の婚姻費用の不払い分」として財産分与に加算して請求することが多い。本件は何らかの事情で、過去の婚姻費用でなく、養育費として離婚に附帯請求がなされたようである。過去の婚姻費用は、過去に請求していない場合に財産分与に反映されるか否かあいまいであるが、養育費としての請求であれば、過去の請求の有無を問わず認められやすい(未成熟子は請求がなくても要扶養状態ということが明らか)という面はあるかもしれない。

2007.3.15
離婚等請求事件の執行力ある調停調書正本に基づき、1日につき各1000円の間接強制金の支払を命じた事例
[裁判所]大阪家裁
[年月日]2007(平成19)年3月15日決定
[出典]家裁月報60号4巻87頁
[事案の概要]
債権者と債務者とは、平成17年2月、長女と長男の親権者を債権者と定めて和解離婚すること、1人あたり1ヶ月3万円の養育費を支払うことを骨子として和解。債務者は初回から支払をしなかったため、債権者は同年5月に履行勧告を申立て、債務者は年末までにまとめて支払う旨を約したので事件は終了した。しかし、債務者はその後2万円を支払ったのみであった。
[決定の概要]
債務者は、財産がまったくないと申述するが、これを裏付ける証拠を提出せず、債務者は不動産の売買、賃貸等を目的とする会社を経営し、経済的に困窮している様子はうかがえないとし、これまでの支払状況等や間接強制金の累積により債務者に過酷な状況が生じる恐れがあることを考慮し、次のとおり命じた。
(1)決定の送達を受けた日から20日以内に(ただし、Aの金員のうち、この期間内に弁済期が到来しない部分については、それぞれ弁済期が経過するまでに)、次の@及びAの各金員を支払え。
 @142万円(平成17年3月分から平成19年2月分までの未払養育費の合計
  金)。
 A平成19年3月から同年7月まで毎月20日限り6万円ずつ。
(2)@の支払がないときは、上記期間の翌日から支払済みまで(ただし、120日間を限度とする。)、1日につき1000円を支払え。
(3)Aの支払がないときは、各月分全額の支払がなされないごとに、各月分の期限の翌日から支払済みまで(ただし、30日間を限度とする。)、1日につき1000円を支払え。
[ひとこと]
決定の主文には裁判所の工夫が見られるが、内容がわかりにくいものとなっている。

2006.6.29
協議離婚の際に公正証書によって合意した養育費の減額請求が認められた例
[裁判所]東京家裁
[年月日]2006(平成18)年6月29日審判
[出典]家月59巻1号3頁
[事案の概要]
協議離婚の際に、母が親権者となり、父は長女及び次女の養育費を1人あたり月額7万円を支払う旨、及び、定められた月額養育費の支払いを2ヶ月分以上遅滞したときは、その遅滞額及び将来にわたる未払い月額養育費の合計額を一括して支払う旨の期限の利益喪失約款を定めた。離婚後、父から養育費の減額の申し立てがなされた事例。
[判旨]
本件養育費は、いわゆる標準的算定表により算定される養育費の2倍以上の額であり、父の収入額からみて、これを支払い続けることが相当に困難な額であったこと、公正証書作成の経緯等の諸事情を考慮すると、双方の生活を公平に維持していくためにも、養育費の月額を減額変更することが必要とされるだけの事情の変更があると認められ、また、上記公正証書において、定められた月額養育費の支払いを2ヶ月分以上遅滞したときは、その遅滞額及び将来にわたる未払い月額養育費の合計額を一括して支払う旨の期限の利益喪失約款が定められているが、養育費は、その定期金としての本質上、毎月ごとに具体的な養育費支払請求権が発生するものであって、上記期限の利益喪失約款に親しまない性質のものであるとともに、養育費の定期金としての本質から生じる事情変更による減額変更が、上記期限の利益喪失約定により許されなくなる理由もないとして、申し立てを認容した。

2006.2.25
子が大学を卒業するまでの合意(その合意の意味を判断した例)
[裁判所]東京地裁
[年月日]2006(平成18)年2月25日判決
[出典]判タ1232号299頁
[判決の概要]
1「原則として年毎に総務庁統計局編集の消費者物価指数編東京都区
 部の総合指数に基づいて増額し」との条項から、直接、原告主張の
 ような基準に依拠した具体的な本件養育料等増額分の支払請求権が
 発生すると解することはできない。
2 原告の本件養育料等増額分の請求は過去の扶養料を一括して遡及
 的に請求するものであって、失当であると解される。
3 子の養育料等の給付義務の終期を『子が大学を卒業する月まで』
 とした調停における合意は、子らが「成年に達した時点において、
 現に大学に在籍しているか」「合理的な期間内に大学に進学するこ
 とが相当程度の蓋然性をもって肯定できるとの特段の事情が存在す
 る場合」を除き、「成年に達する日の前日をもって終了するとの趣
 旨」である、とした。

2006.1.18
潜在的稼働能力を前提とする得べかりし収入に基づき養育費を算定した事例
[裁判所]福岡家裁
[年月日]2006(平成18)年1月18日
[出典]家事月報58巻8号80頁
[事実の概要]
先行する審判において養育費の支払いを命じられた夫が、勤務先を退職して収入がなくなったとして、養育費免除の申立てをした事案
[判決の概要]
申立人(夫)は先行する審判の強制執行を免れるために勤務先を退職したものであるから、申立人が現在収入を得ていないことを前提に養育費を免除することは相当でないとして、申立人の潜在的稼働能力を前提に申立人が勤務を続けていれば得べかりし収入に基づき養育費を算定し、申立てを却下した。
[ひとこと]
収入がない場合でも、潜在的稼働能力が考慮され養育費の支払いが免除されるわけではない一事例である。

2005.10.17
養育費の調停調書に基づく間接強制の申立を却下した例
[裁判所]大阪家裁
[年月日]2005(平成17)年10月17日決定
[出典] 家裁月報58巻2号175頁
[事実の概要]
子Aについての養育費支払の調停調書があるにもかかわらず、債務者(元夫)はその債務を履行せず、未払金が合計20万円に達している。債務者は、再婚し子Bをもうけ3人で生活しているが、債務者が代表取締役を務めていた会社は破産し、債務者個人も破産を申立てた。債権者(元妻)は、債務者が債務を履行しないときは、本決定送達日の翌日から履行済みまで1日につき3000円の割合による金員を支払う旨の決定を求めた。
[判決の概要]
本決定は、民事執行法167条の15の但書は、間接強制によって債務者の生活を過酷なものにする危険性があることから、債務者の流動資産を基礎として、資力を欠くために弁済できない場合及び弁済することで生活が著しく窮迫する場合には、間接強制の決定をすることができないとしているが、本件における債務者の収入、資産の状況、生活の現状等によれば、本件債務者には資力がないことが推認され、右但書の場合に当たるとして間接強制の申立を却下した。しかし、養育費の支払は非免責債権(破産法253条)であることなどから、債務者に対し、早急に養育費の支払を行うよう付言した。
[ひとこと]
数少ない養育費についての間接強制の判例

2004.5.19
認知を受けた子についての養育費の始期を出生時とし、父の収入につき信頼できない給与明細を採用せず賃金センサスに依拠して養育費を算定した例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2004(平16)年5月19日決定
[出典]家裁月報57巻8号86 頁
[事実の概要]
Aは,Bとの間に未成年者Cを出産し,Cについて認知審判によりBの子であることが確定した。審判確定直後,AはBに対し養育費分担調停を申し立てた。原審では,養育費分担の始期をAがBに対して養育費の支払いを請求した時点とし,Bの収入をB提出の給与支払明細書により認定した。Aが審判を不服として即時抗告した。
[決定の概要]
幼児について認知審判が確定し、その確定の直後に養育費分担調停の申立てがされた場合には、民法784条の認知の遡及効の規定に従い、認知された幼児の出生時に遡って養育費の分担額を定めるのが相当であるとし、また、父は、その叔父が経営する会社で稼動しているところ、父が提出した給与支払明細書は、その就業先から受けている給与額を正しく記載したものとは考えられず、これにより父の収入を認定することは困難であるとして、給与支払明細書に基づいて収入額を認定し請求時からの養育費分担額を算定した原審判を取り消し、幼児の出生時に遡って、賃金センサスにより推計した収入額を基に養育費分担額を定めた。
[ひとこと]
夫は養育費の額を抑えるために,実態を反映していない給与支払明細書を提出した可能性が高い。提出資料の信頼性が乏しい場合として,賃金センサスにより収入を推計した案件である。

2003.8.15
[裁判所]東京高裁
[年月日]2003(平成15)年8月15日決定
[出典]家月56巻5号113頁
[事案の概要]
未成年を監護している母が父に対して養育費の支払を求めた子の監護に関する処分審判に対する即時抗告事件において、算定表に依拠し、原審判が支払を命じた養育費の額を変更した。未成年者は決定時約4歳。
[決定の概要]
関係法規の規定等から導かれた公租公課の収入に対する標準的な割合及び統計資料に基づき推計された費用の収入に対する標準的な割合から算定される抗告人(父)及び相手方(母)の各基礎収入並びに生活保護の基準及び統計資料に基づき推計された子の生活費の割合を基に、抗告人(父)が平成15年3月31日限り(原審判後である)に無職となっていること、父及び母の現在の収入(負担能力)及び今後の見通し等を加味して、養育費の額を算定した。養育費は月2万円。
[ひとこと]
算定表(判例タイムズ1111号)公表後、養育費の審判事件(子の監護に関する処分審判)としては、初めて公表された判例である。

1996.9.30
相手方の収入等に関する資料が得られないため、申立人の陳述に基づいて相手方の職業を特定し、賃金センサスを用いて収入を推計し、養育費の支払いを命じた事例
[宇都宮家裁1996(平成8)年9月30日審判 家月49巻3号87頁]
[事案の概要]
申立人は、交際していた相手方との間の子を出産し(1977年生)、相手方は子を認知した。申立人は子を一人で養育してきたが、その後、子は短大に進学した。申立人は、経済的に余裕がないことから、相手方に対し養育費の支払いを求める調停の申立てをした。相手方は調停に出頭せず、調停は審判に移行した。
[審判の概要]
相手方については、家族状況、職業、収入、支出などに関する資料が全く得られない。そこで、家族については、住民票から6人家族同居と推定し、相手方の子は全員成人しているので、父が扶養する必要はないものとし、相手方の妻及び母を被扶養家族とする。相手方の職業は、申立人の陳述によりダンプカー持込みの運転手と認める。またその収入については、平成6年の「賃金構造基本統計調査報告」(賃金センサス)中の「営業用大型貨物自動車運転者(男)及び営業用普通・小型貨物自動車運転者(男)50〜54歳」企業規模別及び都道府県別に拠ることとする。そうすると相手方の月額収入は、きまって支給する現金給与額の平均の36万5000円とするのが相当である。持込み運転手であることを考慮して年間賞与などは含めないこととし、職業経費を30パーセントと認め、結局相手方の算定の基礎となる収入を、25万6000円とする。
[ひとこと]
義務者が調停・審判に出席しなかったり、資料の提出に協力せず、収入等に関する資料が得られない場合がある。そのような場合でも、養育費の支払い義務を免れるわけではなく、本件では賃金センサスによって収入を推計しており、妥当な判断である。

 
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