1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1-1-2001.12.03 F社電子メール事件(東京)
 上司X男が部下A女にセクシュアル・ハラスメントを行ったという事実についての証拠がないとしてA女の損害賠償請求を棄却するとともに、A女が事実無根のセクシュアル・ハラスメント行為を捏造したとの証拠もないのでX男の名誉毀損の訴えも棄却した事例
[裁判所] 東京地裁
[年月日] 2001(平13)年12月3日判決《確定》
[出典] 労働判例826号76頁
[事実の概要]
 A女は飲み会で酔ったX男に抱きつかれたと主張し、X男はA女が事実無根のセクシュアル・ハラスメント行為を捏造したと主張した。X男は、A女が夫に宛てた、X男への不満を述べたメールを偶然受信したことから、以後、A女のメールをすべて監視した。
[原告の請求] A女(と夫B)の請求:200万円。X男の請求:300万円。
[判決の概要]
 A女、X男の請求をともに棄却。セクシュアル・ハラスメントを認めるに足りる証拠がない。抱きつき行為を目撃したという証人Dには当事者性があり、その供述も不自然。X男がA女に「飲みに行く時間を作ってくれ」と要求したことはセクシュアル・ハラスメントとはいえない。
 A女が事実無根のセクシュアル・ハラスメント行為を意図的に捏造したと認定できる証拠もない。X男は当時かなり酔っていた可能性があり、A女の訴えようとする動きを知った後の行動は、抱きつき行為を行っていないことについて磐石の自信を持つ者としては些か冷静さに欠けるという印象を払拭できない。
 本件のような紛争になれば、会社内の相当程度の範囲に噂が広がるのは避け難いことである。セクシュアル・ハラスメント行為を受けたと主張することに名誉毀損を認めるのは、セクシュアル・ハラスメント調査に対する過大な萎縮効果を招来するおそれがあるから慎重でなければならない。名誉毀損となるのは、明確な加害意図のもとに故意に虚偽の事実を捏造し、不特定多数の者に広く了知されるような方法で殊更に告知されたような場合に限定されるべきである。
[ひとこと]
 X男の行為はクロでもシロでもなくグレーであると判断されたことから、敗訴例ではなく本欄に含めた。A女が被害を証明できなかったとしてもセクシュアル・ハラスメントを主張したことは名誉毀損にならない、と具体例をあげて示した点が高く評価できる。被害が証明されなかったときに名誉毀損を成立させた事例として5-1-1994.04.11および5-2-1999.06.08など。