4 その他
4‐7 障害者の監督者による事例
4‐7‐2004.03.31 ダンボール加工会社事件(茨城)
 ダンボール加工会社の代表取締役X男が、雇用していた知的障害を持つ原告女性3名に身体的、性的、精神的虐待を行ったことについて、各原告に500万円を支払うよう命じられた事例
[裁判所]水戸地裁
[年月日]2004(平16)年3月31日判決
[出典]判例時報1858号118頁
[事実の概要]
 ダンボール加工会社の代表取締役X男(48)は、30名ほどの従業員を雇用していたが、そのうち27、8人は知的障害者であり、日常的に暴行を加えていた。X男は、従業員A女、B女およびC女に対しては数年間にわたり、殴打、足蹴り、強姦等を行った。A女ら3名は退職後に、X男に対する訴訟を提起した。
[原告の請求]各原告に1,000万円
[判決の概要]
 X男は、各原告に500万円支払え。「原告らの供述は、被告から暴行を受けたり姦淫されたことなどの中心的部分については、ほとんど変遷はなく一貫している」。「知的障害者及びその家族は…ひどい不当な取り扱いを受けても仕方がないという劣等処遇感を抱いており…就職した一般企業から退職するようなことは極力避けるよう努力し我慢するという心理的・社会的状況にあること〔から〕…原告らが実際には被告から身体的暴行や強姦等の性的被害を受けていないのに、再就職等の具体的見込みもないのに被告会社を退職し…被告に対し虚偽の刑事告訴を行ったり、民事訴訟を提起することは到底考え難い」。「知的障害者は…日時を特定することが苦手であること〔から〕…原告らが日時についてほとんど特定しえていないとしても、原告らが被告から身体的暴行や性的被害を受けたこと自体の供述の信用性が減殺されることにはならない」。
 原告ら以外の証言とも反する被告の供述は信用できない。
 被告は不法行為の消滅時効を主張するが、雇用契約の継続中に原告らが被告を提訴することは「ほとんど不可能であると認められ…知的障害者は雇用先を退職し又は退職することを決意し、他者から援助・説明を受けて初めて損害賠償請求訴訟を提起することが事実上可能となる」ので、消滅時効は完成していない。
[ひとこと]
 知的障害者の証言は信用性を否定されがちであるが、信用性を認め、さらに多年に及んだ暴行につき消滅時効も完成していないとした本判決は、高く評価できる。知的障害者の証言の信用性を否定した事例に 5-3-2001.12.07、消滅時効の起算点を被害者に有利に解釈した事例に2-1-1999.07.294-4-2002.01.16