4−1−2008.2.28
配偶者の不貞と父子関係が存在しないことを知らずに支払った婚姻費用分担金等が不当利得となるとした事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2008(平成20)年2月28日判決
[出典]速報判例解説3号109頁
[事実の概要]
被控訴人(元妻)Y1は,控訴人(元夫)Xとの婚姻前から,不貞相手Y2と交際しはじめ,Xとの婚姻後のY2との性交渉で,Aを出産した。AはXとY1の長女として戸籍に記載された。当初,XはY1とY2の不貞の事実を知らなかった。
Xが自宅を出てY1と別居し,離婚調停を申し立てたが,不成立となった。離婚調停中に,Y1は,婚姻費用分担の調停を申し立てた。Xは,婚姻費用の審判に従い,合計376万5000円,さらに,別居開始の翌月から,家賃として,金553万9000円を支払った。
その後,Xは,離婚訴訟を提起したが,XとY1は当分の間別居し,その間,XとAと面接交渉を行う旨の和解が成立した。
他方,Y1は,Xに秘して,Y2との男女関係を継続し,Xとの別居中の2か月ほどY2と同居生活もしていた。
Xが再び申し立てた離婚調停で,調停離婚する,Aの親権者をY1とする,XはY1に対し,Aの養育費として,毎月金10万円等を支払うなどを内容とする調停が成立し,その後Xは養育費合計金105万円を支払った。
その後XはAとの親子関係不存在確認の調停を申し立て,鑑定を経て,XとA間に父子関係が存在しないことにつき,合意に相当する審判がなされ,同審判は確定した。
Xは,(1)Y1に対し,Y2との情交関係の結果妊娠し,また不貞の事実を隠して婚姻費用や養育費を釣り上げた等の行為につき,不法行為に基づく損害賠償を求め,(2)同時に,支出したAの養育費,別居開始翌月からの家賃,婚姻費用分担金等が不当利得にあたるとして,返還を求めた。また,(3)Y2に対しても,Y1との不貞行為につき,不法行為に基づく損害賠償を求めた。
奈良地方裁判所は,(1)(3)は認容したが,(2)については,養育費については不当利得にあたるが,Y1は善意の受益者であるとし,婚姻費用については,不当利得にならないとして,退けた。
そこで,Xが控訴。
[判決の概要]
@Xは,Y1の夫としての責任を負う趣旨で,家賃を含む婚姻費用分担金を出捐したものであること,Aしかし,Xは,Y1がY2と不貞関係を続け,Aをもうけた事実を知っていれば,上記の出捐をするはずがないこと,BY1は,当事者として真実を知りつくしていたばかりか,CXに事実を告知してしまえば,Xが出捐しないことをわかっていたので,事実について沈黙していたこと,がそれぞれ推認できる。
これらの事情を総合すれば,Xが真実を知らないために,配偶者としての責任を負う趣旨でY1に交付した金銭は,Y1がXに真実を告げさえすれば交付されるはずがなかったものであり,上記のような事情の下に支払われた金員は,たとえ審判に基づき支払われたものであるとしても,これをY1において保持することを適法とするのは,著しく社会正義に反し,信義則に悖るものである。したがって,婚姻費用分担金,家賃については,不当利得を構成するものと解するほかない。調停調書に基づき支払われた養育費についても同様である。
[ひとこと]
Y1の有責性を考慮した場合でも,夫婦である以上,XがY1に対して一定の婚姻費用を負担しなければならない場合もあり,この限度での費用も不当利得と構成することについては,疑問視する見解もある。
また,親子関係不存在確認の効果を出生時に遡及するとすれば,提訴期間が1年に制限される嫡出否認の訴えに比し,莫大な養育費の返還請求の可能性等,影響が大きく,検討を要する。
(以上,参考文献 冷水登紀代「有責配偶者に支払った婚姻費用分担金等の返還の可否」『速報判例解説』3号109頁ないし112頁)
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