1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1-1-2004.12.24 Sバス会社事件(青森)
 取締役X男が、会計係A女に対して、職場において睨み付けるような目つきをする、恋情を書き連ねた手紙を何通も手渡す、出張の際の宿泊先で強姦未遂ともいえる行為に及ぶ等の行為を、A女の在職中の約9年間継続的に続けたため同女が退職するに至ったことにつき、約587万円の支払いが命じられた事例
[裁判所]青森地裁
[年月日]2004(平16)年12月24日判決
[出典]労働判例889号19頁
[事実の概要]
 先々代社長の息子でもある取締役X男(40代)は、会計係A女(40代)の入社数ヵ月後から、A女に対し、職場において睨み付けるような目つきをする、恋情を書き連ねた手紙を何通も手渡す、出張の際の宿泊先で強姦未遂ともいえる行為に及ぶ等を、A女の在職中の約9年間継続的に続けた。A女は労組に相談したが、労組からも被告会社からも我慢しろ等と言われたため、無力感や疎外感が強まるとともに、体の不調を覚えるようになり退職するに至った。X男はA女主張の事実をすべて否定するとともに、強姦未遂事件については提訴が同事件から3年以上経過しているとして消滅時効を主張。
[原告の請求] X男と会社に、約1,793万円
[判決の概要]
 X男と会社は、約587万円支払え(慰謝料200万、逸失利益約317万、弁護士費用70万円)。X男は、証拠として残されていたラブレターを渡したことも否定しており、信用できない。「X男の行為は、被告会社の幹部職員にしてA女の上役であるとの優越的地位を背景としたものであって、部下としての相手の立場や心情を無視した自己中心的な行為として強い非難に値する」。「X男のセクハラ行為及びこれに対する被告会社の認識の低さとA女に対する対応の悪さとがA女をして退職することを余儀なくさせ、その後の生活設計にも影響を及ぼした」。「A女は定職を失い、再就職を希望しているが現況(年齢50歳代、女性、家族と同居)では被告会社と同程度の条件の就職口を見つけることは著しく困難」であるから、退職後1年間は退職前の給与相当額が逸失利益として認められる。
 消滅時効については、「本件セクハラ行為は…継続的に続けられていた行為であり、一連のものとして把握、評価されるべきものであるから、A女が被告会社を退職してX男の行為が終わったときをもって消滅時効の起算点とすべきである」ので、消滅時効期間(不法行為)は経過していない。
[ひとこと]
 X男の行為のうち最も重大な強姦未遂行為は提訴の約7年前であったが、多年に及んだ継続的なセクシュアル・ハラスメント行為のひとつとして評価することで、消滅時効の起算点を退職時とした。被害者に有利に解した消滅時効として以下の事件も参照。
4-7-2004.03.31
2-1-2002.06.11
4-4-2002.01.16
2-1-1999.07.29
逸失利益1年分はほぼ定着か。同様の判断をした事件として以下も参照。
1-1-2002.05.15
1-1-2001.03.22