判例
2 離婚慰謝料

慰謝料は,婚姻期間、有責性の程度、被害の程度、有責配偶者の資産・収入、別途財産分与がなされるか、子の有無などにより額が決まるが、明確な基準はない。従来、普通のケースの上限は500万円ともいわれていたが、最近、未公表判例では、継続的暴力のあった例で700万円のものが散見される。

2−1−不貞行為が原因の場合

2−1−2013.3.22
夫が妻の不貞行為を理由として慰謝料440万円の支払いを求めた事案において、妻からの夫の不貞行為を原因とする信義則違反の主張を排斥しつつ、夫婦破綻の原因は妻の不貞行為が唯一の原因ではないとして慰謝料150万円の支払いを認めた事例
[東京地裁2013(平成25)年3月22日判決 LEX/DB25512056]


2−1−2013.2.14
元妻が元夫に対する、婚約前から元夫が他の女性と男女関係を続けていたことを原因とする損害賠償請求が認容された事例
[佐賀地裁2013(平成25)年2月14日判決 判時2182号119頁]


2−1−2007.4.17
不貞行為及びその結果婚姻関係が破綻したことによる精神的苦痛についての慰謝料請求事件の判決の既判力の範囲を示した事例
[裁判所]広島高裁
[年月日]2007(平成19)年4月17日判決
[出典]家月59巻11号162頁


2−1−1991.7.16
婚姻の破綻については夫の無責任な態度や暴力行為にも相当の責任があるが、妻の不貞行為が破綻を決定的なものとしたとして、有責配偶者である妻からの離婚請求は認めたが、妻に対して200万円の慰謝料の支払いを命じた例。
[裁判所]東京高裁判決
[年月日] 1991(平3)年7月16日
[出典]判時1399号43頁

2−1−1989.11.22
同居期間12年,別居期間36年,夫が別の女性と暮らしている事案で、慰謝料1500万円、財産分与1000万円を認めた例
[裁判所]東京高裁判決
[年月日] 1989(昭64)年11月22日
[出典]判時1330号48頁


2−1−1988.6.7
同居期間38年,別居期間17年,夫が別の女性と暮らしている事案で、慰謝料1000万円、財産分与は1200万円を認めた例
[裁判所]東京高裁判決
[年月日] 1988(昭63)年6月7日
[出典]判時1281号96頁

2−1−1985.11.29
別居が34年,別の女性との同居が23年に及ぶ有責配偶者からの離婚請求の事案で,夫の悪意の遺棄,不貞行為などについて,妻が「夫の行動を防止ないし解消するための積極的な措置を殆んど取らなかったこと」が考慮され,夫について慰謝料を300万円とした例。ただし,夫が妻に贈与した土地が7300万円に値上がりしていることも考慮されている。
[裁判所]浦和地裁判悦
[年月日] 1985(昭60)年11月29日
[出典]判タ615号96頁

2−1−1980.9.29
16年間の婚姻生活中,次から次へと数人の女性と婚外関係を繰り返していた夫について300万円の慰謝料を認めた例。財産分与はなし。
[裁判所]東京高裁判決
[年月日] 1980(昭55)年9月29日
[出典]判時981号72頁

2−1−1980.8.1
夫の度重なる不貞行為と暴力が原因で破綻したが,夫に多額の財産があり,財産分与として1億円と5000万円相当の不動産の分与が命じられたほかに慰謝料1000万円を認めた例
[裁判所]横浜地裁判決
[年月日] 1980(昭55)年8月1日
[出典]判時1001号94頁

2−2−暴力,悪意の遺棄が原因の場合

2−2−2015.6.19
婚姻関係破綻の主たる原因が元夫の行為にあるとして元妻の慰謝料請求が一部認容された事案
[東京地裁2015(平成27)年6月19判決 LEX/DB25530573]


2−2−2015.2.20
原告(元夫)からの親子関係断絶の長期化等についての慰謝料請求が棄却され、被告(元妻)からのDV等についての慰謝料請求の一部が認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年2月20日判決 LEX/DB25523778]


2−2−2000.3.8
夫の度々の暴力により妻が右鎖骨骨折,腰椎椎間板ヘルニアの傷害を負い運動障害の後遺症が残ったケースで離婚による慰謝料350万円のほかに入通院慰謝料,後遺障害慰謝料,逸失利益として合計1714万円の損害賠償請金の支払が命じられた例
[裁判所]大阪高裁判決
[年月日] 2000(平12)年3月8日
[出典]判時1744号91頁


2−2−1998.2.26
夫の暴力があり、慰謝料400万円が認められた例
[裁判所]東京高裁判決
[年月日] 1998(平10)年2月26日
[出典] 家月50巻7号84頁

2−2−1997.4.14
夫が些細なことで殴る、蹴るの醜い暴力をふるったことにより婚姻が破綻したとして、夫に400万円の慰謝料の支払を命じた例
[裁判所]横浜地裁判決
[年月日] 1997(平9)年4月14日
[出典]家月50巻7号90頁、判時1744号91頁

2−2−1984.9.19
暴力・悪意の遺棄をした夫について慰謝料300万円を認めた例。財産分与は640万円
[裁判所]浦和地裁判決
[年月日] 1984(昭59)年9月19日
[出典]判時1140号117頁

2−2−1979.1.29
婚姻期間8年、夫が妻の男性関係にあらぬ疑いをいだき,夫の母も嫌がらせ的な言動に出て,妻に家を出るよう強要し婚姻後6カ月で別居したが,妻が離婚に同意しないことから,妻方に執拗に嫌がらせの電話や手紙を繰り返し,妻の父母を相手どって言いがかりとしか見えない訴訟を提起したりした事案で、夫に慰謝料500万円の支払を命じた例。財産分与なし。
[裁判所]東京高裁判決
[年月日] 1979(昭54)年1月29日
[出典]判時918号71頁

2−2−1975.1.31
夫が収入を酒食や女遊びに浪費し,妻に対しほとんど毎日のように暴力をふるい、頭髪を引張る,手拳で殴打,足で蹴る,下駄で頭を殴ってかなりの裂傷を負わせる,出刃包丁で手指などを切りつける,薪割りやスコップを振り上げて追いかけまわす等した事案で,慰謝料500万円と認め、財産分与と合わせて時価約1000万円の土地・建物の分与を認めた例
[裁判所]大阪家審
[年月日] 1975(昭50)年1月31日
[出典]家月28巻3号88頁

2−3−不利益な事実の不告知が原因の場合

2−3−1986.8.26
夫は婚姻前2年間は安定して職業生活を続けていたから婚姻前にうつ病であることを告げなかったとしても不法行為にはならないが,妻から追及されたのにひたすら隠し続け婚姻生活を破綻する自殺行為に出たのは夫婦間の協力義務を故意に懈怠したもので不法行為にあたるとし,両当事者の資力と社会的地位を考慮し夫に慰謝料1000万円の支払を命じた例
[裁判所]東京地裁判決
[年月日] 1986(昭61)年8月26日
[出典]判時1271号83頁

2−4−性交渉拒否が原因の場合

2−4−2017.8.18
協議離婚後に、元妻が元夫に対し、婚姻中の性交渉等がなかったことにより婚姻関係が破綻し、離婚に至ったと主張して慰謝料等の支払いを求めたのに対し、性交渉等がなかったことだけではなく、その余の事情も考慮して、元夫に慰謝料等の支払いを命じた事例
[東京地裁2017(平成29)年8月18 日判決 判タ1471号237頁]
[事実の概要]
原告(元妻)と被告(元夫)は、約9か月の交際期間と、それに続く約8か月の婚前の同居期間を経て婚姻した(ともに30代で初婚)。
原告は子を授かりたいと強く希望し、また、夫婦の愛情を感じるために性交渉を持ちたいと希望していたが、交際期間、婚前の同居期間及び婚姻期間のいずれにおいても一度も性交渉を持たず、接吻や抱擁等の身体的接触すらもなかった。
原告と被告は、婚姻から約1年後に協議離婚をした。
原告は、被告に対し、被告が性交渉を拒絶したこと等を原因として婚姻関係が破綻し、離婚に至ったものであると主張し、慰謝料500万円、弁護士費用50万円及び遅延損害金の支払いを求めて提訴した。
[判決の概要]
「性交渉等を含む夫婦間の性的な営みについては、元よりそれを想定せずに婚姻をしたなどの特段の事情のない限り、婚姻関係の重要な基礎となるものであるから、これを軽視することは相当ではないけれども、他方で、単なる性的欲求の解消というようなものではないのであるから、肉体的結合の有無ということのみを殊更重視するというのもまた相当とは言い難く、精神的な結合のもと夫婦が互いに情愛を持つ中で肉体的な結合に至り、その結果として子を授かることもあれば授からないこともあろうが、いずれにしても精神的結合のもとに成り立つ肉体的結合により更に精神的な結合が深まるというところに、夫婦間の性的接触の重要な意義があるものと考えられる」、
「夫婦間で一度も性交渉等がなかったというのは、婚姻後間もない夫婦の在り方としては一般的とは言い難く、原告において強い不安にさいなまれ、しかもこれを被告に伝えてもなお、被告の態度に特段の変化がなかったというのであるから、このような被告の態度に起因して、婚姻関係を継続することを断念するに至ったという原告の心情は首肯できる。加えて・・・性交渉そのものはなくとも、身体的な接触や言葉を交わすなどして夫婦間の精神的結合を深めるということも可能であるのに、被告にはそのような行動を起こそうとする兆しも見受けられず、このような事情に照らすと、本件においては、被告が原告に対する性的関心を示さない、又は原告においてこれを感じることができるような態度を示さないことにより、夫婦間の精神的結合にも不和を来たし、婚姻関係の破綻に至ったということができる」、
などとして、50万円の離婚慰謝料、5万円の弁護士費用及び遅延損害金の支払いを命じた。

2−4−1991.3.29
夫と妻は婚姻から9ヶ月で協議離婚。その後、婚姻当初から性交渉を拒否し続けた妻に対し夫から慰謝料請求がなされたケース。婚姻の破綻は妻の男性との性交渉に耐えられない性質からの性交渉の拒否によるものであるとして妻に150万円の慰謝料の支払が命じられた例
[裁判所]岡山地裁津山支部判決
[年月日] 1991(平3)年3月29日
[出典]判時1410号100頁

2−4−1990.6.14
夫が性交渉に無関心で交渉のないまま婚姻して1カ月足らずで別居,離婚した事案で,妻は結婚退職し別居後再就職したが,以前の3分の1以下の収入しかなく,これまでの貯金なども結婚費用に450万円弱を費消していたことから,夫に500万円の慰謝料の支払を命じた例。財産分与はなし。
[裁判所]京都地裁判決
[年月日] 1990(平2)年6月14日
[出典]判時1372号123頁

2−4−1987.5.12
夫の性的不能が原因で婚姻が破綻したとして、慰謝料200万円が認められた例
[裁判所]京都地裁判決
[年月日] 1987(昭62)年5月12日
[出典]判時1259号92頁

2−4−1986.10.6
夫は新婚旅行中から妻の体に一切触れようとせず性交渉が皆無で,新婚1ヵ月半で妻が肉体的・精神的に疲れきって実家に帰ったという事案で夫について慰謝料100万円。
[裁判所]横浜地裁判決
[年月日] 1986(昭61)年10月6日
[出典]判時1238号116頁

2−4−1985.9.10
夫がポルノ雑誌に異常な関心を示して自慰行為に耽り,妻が性生活を求めたのに拒否したことなどについて夫について慰謝料500万円、財産分与は1000万円。
[裁判所]浦和地裁判決
[年月日] 1985(昭60)年9月10日
[出典]判タ614号104頁

2−5−その他、円満な家庭を築く努力を怠った場合・自己中心的な行為がある場合

2−5−2014.12.3
婚姻期間中の嫌がらせ行為により精神的苦痛を被ったとした慰謝料請求の一部が認容された事例
[東京地裁2014(平成26)年12月3日判決 LEX/DB25523285]
[事実の概要]
元妻Xと元夫Yは、1994年に婚姻し、1998年、長男が出生した。
2012年、Xは長男を連れて家を出てYと別居した。2013年、XとYは、長男の親権者をYと定めて調停離婚した。その際、養育費3万円を支払う旨の約束がされた。
XはYに対し、婚姻期間中のYのXに対する暴言、虚偽の風説の流布、脅迫行為、職場や近隣の人に対する嫌がらせ行為により、苦痛を被ったとして、慰謝料300万円を求めて訴訟提起した。
[判決の概要]
判決は、Yが婚姻当初頻繁に他人を家に招いて酒食を提供したり、他人と外食に行った際はその他人の分の飲食代を負担したり、Xに相談なく90万円のローンを組んで植毛をしたりしたこと、鳥や魚などの動物を飼育したりフィギュアを多数集めていたこと、Xと知り合ったのは「Xが風俗嬢だったとき」等と嘘を友人たちに伝えたこと、領収書を偽造して勤務先から金員を詐取したことが発覚して退職を余儀なくされるとともに勤務先からの賠償を家計等から負担せざるを得なかったこと、日常的に飲酒し酩酊の上警察に保護されたり飲酒運転事故を起こしたりもしたこと、Xが注意するとYは暴れXを突き飛ばしたこともあること、粗暴なふるまいも次第に増えてXが長男を連れて家を出ざるを得なかったこと、別居後精神の変調をきたし、再雇用先に無言電話や脅迫電話を繰り返し、近隣や長男の中学校の関係者に対しても嫌がらせをしたこと等を認めた。
その上で、慰謝料として100万円が相当であるとして、その支払いを命じた。

2−5−2013.5.17
原告の配偶者である被告が、原告の名義を無断で使用して金融機関から借金をし、原告に支払うことを約束した生活費を支払わず、原告に無断で離婚届を偽造して、離婚の届出をしたことについて、原告が被告に対して損害賠償請求をした事例
[東京地裁2013(平成25)年5月17日判決 LEX/DB25513150]
[事実の概要]
原告と被告は夫婦であるが、被告は原告の名義を無断で使用し金融機関から借り入れを行った。原告は被告の借り入れによって430万円以上の債務を負い、破産手続開始及び廃止決定を受けた。原告と被告は別居し、被告は原告に対し、生活費月額3万円を支払う旨の約束をしたが、以後これを支払ったのは4回のみである。その後、被告は原告の了解なく居所及び連絡先を明らかにせず、また、原告に無断で離婚届を偽造し、離婚の届出をした。原告が被告に対し、慰謝料300万円を請求した。
[判決の概要]
「被告は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなす。
そして、被告の行為は、原告に対する不法行為に該当するものと認められるから、被告は、原告が不法行為により被った損害を賠償すべき責任を負うところ、原告が被告の無断借入れにより破産を余儀なくされたこと、平成23年11月以降、約束した生活費もほとんど支払わず、平成24年5月以降は原告に居所及び連絡先を明らかにせず転居した被告の行為が悪意の遺棄に該当するものであること、離婚届を偽造して離婚の届出をした被告の行為は犯罪行為に該当するものであることなど、本件訴訟に現れた一切の事情を斟酌すると、原告が被告の不法行為により被った精神的苦痛を慰藉するに足りる金員は300万円と認めるのが相当である。」

2−5−2001.7.5
年間に数えるほどしか掃除をしない,火災がこわくてストーブがつけられない,年収が6〜700万ほどなのに子どもの習い事に年400万円を費消するなどの非常識な行為をする妻に200万円の慰謝料の支払を命じた例
[裁判所]大阪地裁判決
[年月日] 2001(平13)年7月5日
[出典]法学教室252号175頁

2−5−1983.9.8
双方に有責性があるが、妻が夫の職場に対して非難の電話,訪問等をした行為が異様の感を与えるほど執拗,激越であり妻の責任が若干重いとして妻に慰謝料100万円の支払を命じた例
[裁判所]東京高裁判決
[年月日] 1983(昭58)年9月8日
[出典]判時1095号106頁

2−5−1981.9.16
婚姻期間3年。夫が仕事熱心のため帰宅が遅く,夫婦の会話に時間を割かず,円満な家庭を築く夫の努力不足が破綻の原因とされ,100万円の慰謝料を認めた例。財産分与はなし。
[裁判所]東京地裁判決
[年月日] 1981(昭56)年9月16日
[出典]鈴木眞次「離婚給付の決定基準」弘文堂56頁

2−6−慰謝料が否定された例

2−6−2014.7.18
妻が夫を被告として提起した離婚訴訟について、訴状等による主張内容が夫の名誉を毀損するものであったとして、夫が妻に慰謝料等の支払を求めた事案において、妻の訴状等のせ提出は離婚訴訟の追行上必要不可欠なもので、違法性が阻却されるとして、請求を棄却した事例
[東京地裁2014(平26)年7月18日判決 2014WLJPCA0718801]
[事実の概要]
妻が夫を被告として提起した離婚訴訟において、訴状や準備書面、妻の陳述書において、婚姻期間中夫から複数回暴力をふるわれたり、暴言を浴びせられたりした旨の事実を記載した。
2014年4月16日、上記離婚訴訟につき、東京家裁立川支部は、妻の請求を一部認容し、離婚、慰謝料30万円及び遅延損害金の支払いを命ずる旨の判決をした(夫が控訴中)。
[判決の概要]
夫は妻が離婚訴訟の主張書面等で記載した夫の暴力等は全て虚偽であり、夫がDV行為を行う危険なものであるという間違った印象を与え、夫の社会的評価を著しく低下させるものであり、妻は裁判離婚を成立させたいがために立証不可能であることを認識しながらDV行為という法定離婚原因に該当しうる事実をでっち上げ、原告の名誉を毀損したものであり、妻において訴訟活動に名を借りた夫に対する個人攻撃の意図があったことは明白であるとして、慰謝料300万円と弁護士費用30万円を請求した。
判決では、妻の訴訟活動は、離婚訴訟の追行上必要やむを得ないものであったことは明かであり、摘示した事実関係は、破綻の原因及び経緯として直接的に関連するものを具体的に摘示するものにすぎず、表現としての内容、方法、態様において相当性を欠くものではないとした。
また、妻の夫に対する個人攻撃の意図をうかがうことはできない。
妻が摘示した事実関係が客観的な裏付けを欠くものであるとか、保護命令を得ることもなかったとか、医師の診断書も得ていないと夫は指摘したが、そうであるからといって(また、結果的に事実関係の証明に至らなかったとしても)、直ちに原告が離婚原因に該当し得るDV行為をでっち上げたと断ずることはできない等と指摘して、離婚訴訟における訴状等の提出によって、夫の名誉を損なうことがあったとしても、妻の訴訟活動の追行上、必要不可欠なのもので相当性を欠くものではないから、違法性が阻却される。
以上より、夫の請求を棄却した。

2−6−2010.7.28
不貞行為の慰謝料3000万円の損害賠償債務を承認する旨の公正証書を強迫による取消しにより無効とした事例
[裁判所]千葉地裁佐倉支部
[年月日] 2010(平成22)年7月28日判決
[出典]判タ1334号97頁
[事実の概要]
原告は、被告の妻Aと男女関係を持ち、被告に見つかった。被告は、Aと協議離婚したが、原告に対して、不倫の慰謝料を支払えと怒鳴り、殴打、脅すなどして、原告から60万円の支払いを受けた。その後、被告は、原告がAと一緒に歩いているところを見つけて不満を持ち、原告を自宅に呼び出し、テーブルを叩くなどしながら翌日まで慰謝料3000万円を要求し続け、3年後までに既払いの60万円を控除した2940万円を支払う旨の書面を作成させた。その後、その書面を示して公正証書を作成し、さらに同日、土地建物につき抵当権を設定しこれに基づき登記もなした。
原告は被告に対し、強迫による取消し、信義則違反及び錯誤による無効を理由とする公正証書の無効を主張し、強制執行の不許、抵当権設定登記の抹消登記手続を求めた。
[判決の概要]
被告は、原告に対し、離婚した元妻と関係した慰謝料3000万円を一貫して要求して原告方に押しかけ深夜まで長時間怒鳴って原告の顔を殴り、深夜の河川敷に連れ出し竹刀で殴打し包丁の箱を指すなどの暴行脅迫を繰り返し、このような脅迫の開始から本件公正証書作成までの期間が3か月半ほどあるとはいえ、執拗に同一内容の脅迫を続けていたものであって、一時的中断も原告が警察に相談して警察が介入した結果に過ぎず、その後も同一内容の脅迫を再開して本件損害賠償債務を承認する本件公正証書を作成させ本件土地建物に抵当権設定とその登記がなされたものであって、これを全体として見ると、上記認定のような被告による長期間にわたる一貫した強迫行為により原告を畏怖させ、原告の自由な意思形成に重大な影響を及ぼし、その結果被告にいわれるがままに慰謝料3000万円を前提とした本件損害賠償債務を承認する本件公正証書作成・本件土地建物の抵当権設定とその登記をしたものであるから、本件損害賠償債務を承認する原告の意思表示は、被告の強迫によって形成された瑕疵ある意思表示であって、公正証書作成の手続を経て原告の意思が公証人によって確認されているものの、これをもって強迫状態から脱したとはいえず、被告の強迫による瑕疵ある意思表示であるといわざるを得ない。
原告により本訴状をもって、上記強迫により本件債務承認行為を取り消されたので、本件公正証書は効力を持たず、これによる強制執行は許されないし、また本件抵当権設定も効力がなくその旨の登記の抹消も免れないといわざるを得ない。
[ひとこと]
公証人の面前で意思表示をした場合でも、公正証書作成の経緯次第では、強迫による取消しもありうるとしている点で、参考になる判例である。

2−6−2009.12.21
元夫の元妻に対する慰謝料請求につき、離婚訴訟である前訴と実質的には紛争の実態は同一であり、紛争を蒸し返すものであるから、信義則に反して許されないと判断された事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2009(平成21)年12月21日判決
[出典]判例時報2100号43頁

2−6−2000.9.26
熟年離婚で,妻の主張する夫の不貞は認められず,妻の借財・浪費は妻のみを非難することもできないとして双方からの慰謝料請求を否定した例
[裁判所]東京地裁
[年月日] 2000(平12)年9月26日
[出典]判時1053号215頁

2−6−1988.10.12
婚姻はすでに夫の不貞以前に破綻していたとして,慰謝料が否定された例
[裁判所]東京地裁判決
[年月日] 1988(昭63)年10月12日
[出典]鈴木眞次「離婚給付の決定基準」弘文堂60頁

2−6−1986.12.22
妻の不貞行為により破綻したが,夫は妻の不貞の相手方からすでに1000万円の慰謝料を1000万円を得ており,破綻による精神的苦痛は慰謝されているとして,慰謝料請求が否定された例
[裁判所]東京地裁判決
[年月日] 1986(昭61)年12月22日
[出典]判時1249号86頁

2−6−1985.4.26
暴力があり、酒乱、勤労意欲の欠如がみられる夫に対し、妻が無理矢理離婚同意書に署名させたという事案で、妻にも責任の一端があるとして,離婚が成立したことによって精神的苦痛は慰謝されたとして慰謝料が否定された例
[裁判所]東京地裁判決
[年月日] 1985(昭60)年4月26日
[出典]家月38巻9号90頁

2−6−1980.6.27
夫は暴力をふるい,妻には不貞行為がある事案で,双方の慰謝料請求を否定した例
[裁判所]東京地裁判決
[年月日] 1980(昭55)6月27日
[出典]判時423号132頁

2−6−1979.9.26
宗教活動の行過ぎという点で妻の有責性は大きいが,夫にも暴力などがあり有責性があるという事案で,慰謝料を否定した例
[裁判所]仙台地裁判決
[年月日] 1979(昭54)9月26日
[出典]判タ401号149頁

2−6−1976.8.23
破綻原因が妻の情緒不安定で衝動的な行動を繰り返したことにあっても,それが妻の精神病質もしくは未成熟性の性格によるもので,倫理上道義上の非難の対象となりえないとして夫からの慰謝料請求が否定された例
[裁判所]東京高裁判決
[年月日] 1976(昭51)年8月23日
[出典]判時834号59頁

2−6−1971.6.7
妻が夫婦げんかから実家に戻り,夫からの再三の帰来の懇請に応じず,嫁入道具・子どもの産着などの引渡しの仮処分の実行などを行った事案で,妻が精神的苦痛を被ったとしても,それは自ら求めたことであるとして、妻からの慰謝料請求を否定した例
[裁判所]横浜地裁川崎支部判決
[年月日] 1971(昭46)年6月7日
[出典]判時678号77頁

 
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