判例
1-1 有責配偶者からの離婚請求
　1987（昭62）年の最高裁判決（判例（1）は、有責配偶者（主として破綻に責任を負う者）の離婚請求が認められる要件として、

　1 相当長期間の別居
　2 未成熟子の不存在
　3 苛酷状態の不存在

の三つを特に示した。判例(1)の判旨からは必ずしも、これらの要件に拘束されるわけではないが、これ以降の判例は、この三つの要件、特に1と2の要件をめぐって展開されてきた。 ○は離婚が認められ、×は認められなかったケース。

(1)○最大判昭62･9･2判時1243号3頁同居12年、別居36年、未成熟子なし
(2)×東京高判昭62･10･20判タ669号206頁同居11年、別居8年、未成熟子あり
(3)○最判昭62･11･24判時1256号28頁同居4年、別居30年、未成熟子なし
(4)×大阪高判昭62･11･26判時1281号99頁同居5年、別居15.5年、未成熟子なし
(5)○最判昭63･2･12判時1268号33頁同居17年、別居22年、未成熟子なし
(6)○最判昭63･4･7判時1293号94頁同居21年、別居16年、未成熟子なし
(7)×東京高判昭63･8･23判時1288号86頁同居18年、別居11年、未成熟子あり
(8)○最判昭63･12･8家月41巻3号145頁同居0.8年、別居10年、未成熟子なし
(9)○東京高判平元･2･27判タ714号217頁同居8年、別居22年、未成熟子なし
(10)×最判平元･3･28判時1315号61頁同居22年、別居8年、未成熟子なし
(11)×東京高判平元･4･26判時1317号82頁同居23年、別居8年、未成熟子なし
(12)×東京高判平元･5･11家月42巻6号25頁同居10年、別居10年、未成熟子あり
(13)○神戸地判平元6･23判時1343号107頁同居1年、別居33年、未成熟子なし
(14)○最判平元･9･7ジュリ956号99頁判例カード詳細不明別居15.5年、未成熟子なし
(15)○東京高判平元11･22判時1330号48頁同居12年、別居36年、（1）の差戻審
(16)×最判平2･3･6家月42巻6号40頁同居10年、別居10年、（12）の上告審
(17)○最判平2･11･8判タ745号113頁同居23年、別居8年弱、（11）の上告審
(18)○東京高判平3･7･16判時1399号43頁同居17年、別居9.5年、未成熟子なし
(19)○大阪高判平4･5･26判タ797号253頁同居24年、別居26年、未成熟子なし
(20)○最判平5･11･2家月46巻9号40頁同居17年、別居9.5年、（18）の上告審
(21)○最判平6･2･8判時1505号59頁同居15年、別居13年、未成熟子あり
(22)×東京高判平9･2･20判時1620号95頁単身赴任20年
(23)×東京高判平9･11･19判タ999号280頁同居6年、別居13年、未成熟子あり
(24)○仙台地判平10.3.11未公表同居21年、別居6年2月、未成熟子なし
(25)○東京高判平14･6･26判時1801号80頁同居22年、別居6年、未成熟子なし
(26)○那覇地判平15･1･31判タ03年9月15日1124号同居3年7ヶ月、別居8年強、未成熟子あり
(27)×最判平16.11.18判タ1169号165頁、判時1881号90頁、家月57巻5号40頁同居６年７月、別居２年４月、未成熟子（７歳）あり
(28)○福岡高裁那覇支判平15.7.31判タ1162号245頁同居3年11月、別居9年1月未成熟子2人あり
(29)×福岡高判平16.8.26家月58巻1号90頁同居21年、別居9年未成熟子なし
(30)○ 大阪高判平19.5.15判タ1251号312頁 同居8年（家庭内別居期間2年を含む）、別居13年　未成熟子2人あり
(31)×

東京高判平19.2.27判タ1253号235頁

 同居14年、別居9年以上　成人している重度の障害を持つ子あり
(32)○

東京家判平19.8.31家月61巻5号55頁

 同居16年(家庭内別居1年)，別居12年6月　妻抑うつ状態，成年に達した長男に障害，問題行動のある事案
(33)×

東京高判平20.5.14家月61巻5号44頁

 同居16年(家庭内別居1年)，別居15年以上・(32）)の控訴審
(34)×

高松高判平22.11.26判タ1370号199頁

 同居詳細不明、控訴審結審時別居7年5月　成人している重度の障がいを持つ子あり
(35)×

仙台高判平25.12.26判タ1409号267頁/家庭の法と裁判1号111頁

 同居約18年、別居9年　妻うつ病　未成熟子3人あり
(36)〇

東京高判平26.6.12判時2237号47頁

 同居詳細不明、別居1年6月余　未成熟子2人あり
(37)〇

札幌家判平27.5.21LEX/DB25506324

 同居約17年、別居1年6月余　未成熟子2人あり
(38)×

札幌高判平28.11.17LEX/DB25544250

 同居17年弱、別居3年、未成熟子2人あり((37)の抗告審)
(39)×

東京高判平30.12.5判タ1461号126頁

 同居18年弱、別居7年以上、未成熟子2人あり

1 相当長期間の別居
　未成熟子がなく別居期間が15年を越えるケースでは、同居期間や当事者の年齢と対比するまでもなく相当の長期間の別居であると判断されるものが多く、10年以下のケースでは、他の事情を総合して相当の長期間であるかどうかが判断されている。
　判例(24)は別居約6年で離婚を認めており最短である。判例(17)の別居期間は8年弱であるが、このケースは夫の不貞が一時的なものであり、夫が別居後も妻と子どもの生活費を負担し、離婚請求について誠意ある財産給付の提案をしているという事情を考慮して、別居が相当の長期間に当るかどうかについて、時の経過に伴う諸事情の変化と有責行為に対する社会的評価の変容を考慮して、8年の別居期間でも相当の長期間にあたると判断した。このような事情のみられない判例(10)では、同様の8年間の別居について相当の長期間とはいえないとしている。
　判例(17)以降、約10年前後が長期といえる目安とされ、別居期間が同居期間を上回ることは必ずしも必要ではなくなった。民法改正案（1996年法務省案）が離婚原因として「別居5年」をかかげたことから、今後も個別の事情によっては、認容の条件としての別居期間は短縮されていくことが予想される。なお、家裁判例の中には、より短い期間で認めるものがある。

2 未成熟子の不存在
　未成熟子とは、親の監護なしでは生活を保持しえない子の意味である。基本的には成人（20歳）に達していれば、学生でも未成熟子ではないと考えられており、20歳未満であっても就職し自立していれば未成熟子ではない。判例で未成熟子ありとされたのは、判例(2)(7)(12)(21)(23)であり、いずれも高校生以下の子があるケースである。
　この未成熟子の不存在の要件について、1994年の判例(21)は、未成熟子がいる場合でも、ただその一事をもって請求を排除すべきではないとして少し緩和した。別居が13年に及び、未成熟子（高校2年）が三歳の時から現在の養育環境にあり、有責配偶者である夫から妻に対して月15万円の送金がなされ夫が子の養育責任を部分的に果たして来たこと、子がまもなく高校を卒業する年齢であること、相応の離婚給付も期待できることなどを考慮して、離婚請求を認めた。その後この判決を踏まえた判決(22)は、別居が13年に及び高校3年生と中学2年生がいるケースで、監護を要する期間、離婚の子に対する影響、これまでの養育費が不十分であり、今後の養育・監護の負担も確実ではないこと等を考慮して、離婚請求を棄却している。

3 苛酷状況の不存在
　この要件に関しては、財産給付の見込みなど、経済的ファクターが考慮されること多く、判例(7)(12)は、請求棄却の理由の一つとして十分な財産給付が期待できないことを挙げている。
　これに対して、精神的・社会的苛酷をいう判例は多くないが、判例(4)は、別居期間が15年余に及び、その間に子は既に19歳となっている夫婦につき、妻は離婚ということになると将来更に経済的な窮境に放置されることとなる危険性があること、妻は子との実質的親子関係を回復することはほとんど不可能な状況に追込まれるものとみられることなどの事情を考慮すると、離婚を認めることは、自ら婚姻破綻の原因を作出し、不誠実な態度を継続している夫の請求を容認し、他方婚姻継続を熱望している妻を経済的および精神的に更に窮状に追込むことになるものであるとして、有責配偶者たる夫からなされた離婚請求は、信義誠実の原則に照らして許されないとしている。
 
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